症例は58歳女性。1987年に上部消化管内視鏡検査により,十二指腸乳頭部腫瘍と診断した。生検の結果は,軽度の異型を伴うものの,明らかな浸潤像は認めない良性の腺腫であった。以後,およそ半年に1度の内視鏡検査によって経過観察を行った。1992年に行った生検により,細胞および構造異型性がさらに高度となり,腺腫から癌への移行が疑われたため,開腹下に十二指腸を切開し,乳頭部腫瘍を全摘除した。摘出標本の病理組織学的検索では,腫瘍は完全切除されており,やや高度な異型を伴うが,明らかな癌化巣は認められない腺腫であった。十二指腸乳頭部腺腫において,癌腫共存を術前に正診することは困難であり,その取り扱いについては異論も多い。悪性を疑う段階では,まず乳頭全摘除術を施行すべきと考えられる。本例は厳重な経過観察の結果,最小限の手術侵襲で根治することができた。