1993 年 42 巻 p. 69-73
5年以上経過観察しえた食道静脈瘤合併肝硬変32例を対象として,門脈圧亢進症の進行に伴う側副血行路の増加が,食道静脈瘤内視鏡所見の変化に及ぼす影響について検討した。食道静脈瘤内視鏡所見では,基本色調(C),形態(F),占居部位(L)の3つの因子を解析の対象とし,これら3因子の観察前後における所見の比較より,その程度により4群に分類した。門脈血行動態は超音波断層およびドップラー法により計測した。脾臓の大きさ,門脈系脈管の断面積・径および流速は,各群ともに同様の変化がみられ,差はみられなかった。食道静脈瘤以外の側副血行路の出現の割合は,内視鏡所見の変化がない群で最も高率であった。いずれの群においても同様な門脈血行動態の変化であったにもかかわらず,内視鏡所見の変化に違いがみられたことは,門脈血行の血流分散による影響によって生じたものと考えられた。食道静脈瘤以外の側副血行の存在は,食道静脈瘤硬化療法の適応,効果にも影響があり,食道静脈瘤例における経過観察においては,食道静脈瘤内視鏡所見のみならず食道静脈瘤以外の他の側副血行路を含む門脈血行動態全体を観察していくことが重要であり,さらに長期間食道静脈瘤内視鏡所見に変化がない例においては,食道静脈瘤以外の他の側副血行路の発生を考え,検査を進める必要性が示唆された。