抄録
症例は73歳男性。嘔気,粘液便,意識障害を主訴に入院した。入院時血液検査では,電解質異常と脱水を認め,補液による補正を行う必要があった。大量の粘液便排泄を認めたため,大腸内視鏡検査を施行し,歯状線直上より口側に約12cmに及ぶ全周性の絨毛構造を呈する扁平隆起性病変を認め,病理組織学的に絨毛腺腫(villous adenoma)であり,electrolyte depletion syndrome(EDS)を伴った直腸絨毛腺腫と診断した。絨毛腺腫からの水分,電解質分泌にはprostaglandin E2(以下PGE2)の関与が示唆されており,本例に対しPGE2合成阻害薬であるindomethacinを投与したが,無効であった。その後も大量の粘液便排泄は続き,Miles手術を施行し,EDSは改善した。EDSを伴った絨毛腺腫の本邦報告例は1971年から1995年までに26例であり,若干の文献的考察を加え報告する。