患者は61歳,男性。生来健康であったが,平成10年11月,黄疸を指摘され当院へ紹介入院。黄疸・肝機能障害を認めたが,肝炎ウイルス抗体はすべて陰性,抗HIV抗体も陰性であった。入院時胸焼けを伴うため,上部消化管内視鏡検査を施行し,十二指腸球部から下行脚に多発性の活動性潰瘍を認めた。生検組織培養,13C-尿素呼気試験にて,Helicobacter pylori(H.pylori)は陰性であった。2ヵ月間抗潰瘍剤を投与するも縮小せず,生検組織中の核内封入体は認めなかったが,サイトメガロウイルス(CMV)-IgM高値,肝生検組織のPCRにてCMV-DNAを認めたため,CMV感染に起因する十二指腸潰瘍と診断した。抗CMV剤投与により,自他覚所見の速やかな改善と潰瘍の治癒化を認めた。本症例はH.pylori陰性,抗潰瘍剤に抵抗性の十二指腸潰瘍の場合,その原因としてCMV感染も考慮する必要があることを示唆するものである。