日本歯周病学会会誌
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「歯周病患者に対する補綴歯科治療のありかた」に関する提案書
石橋 寛二吉江 弘正川浪 雅光池田 雅彦山森 徹雄坂上 竜資池田 和博角田 正健安田 登高柴 正悟渡邉 文彦三邉 正人伊藤 創造渡辺 久山田 了平井 敏博
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2009 年 51 巻 2 号 p. 191-212

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抄録

 歯周病は中年期以降の日本人の約8割が罹患する炎症性疾患であり,口腔内の健康のみにとどまらず,全身の健康状態にもさまざまな影響を及ぼすことが知られている。歯周治療の基本は炎症のコントロールであり,この目的で,歯と歯周組織に付着した細菌性プラークと細菌由来物質を徹底して機械的に除去することが必要である。歯科医師・歯科衛生士が行うスケーリング・ルートプレーニングと,患者自らが行うブラッシングなどの日々の口腔ケアがこれに相当する。
 中等度以上に進行した歯周病患者の治療においては,炎症のコントロールのみならず外傷力のコントロールが重要となる。これは支持組織の破壊によって歯の動揺や欠損が生じるため,通常の咬合力であっても歯周組織に対して外傷力として働き,二次性咬合性外傷を惹起する。外傷力が存在すると,炎症・感染のコントロールのみを進めても歯周組織の修復がうまく行われない。
 したがって,歯周病患者の治療においては,治療の初期段階から咬合力の軽減と分散をはかる必要がある。歯周基本治療の段階から,咬合調整,暫間固定,暫間補綴などを行って外傷力をコントロールし,歯周組織へのダメージを最小限に抑える。暫間補綴装置は大きく暫間被覆冠と暫間義歯とに分けられ,ともに顎位を確保し咬合力を分散するのに役立つ。また暫間補綴装置の装着は,最終補綴装置を審美的・機能的に満足のいく形態とするためにも重要である。
 しかし暫間補綴装置にはいくつかの問題点が存在する。長期間にわたって暫間被覆冠を装着すると,材質の劣化あるいはプラークの蓄積を引き起こす。さらにセメントの溶解に伴うカリエス,脱離や破損による顎位の不安定化や頻繁な修理・再製作など,患者・歯科医師の双方にとって望ましくない状況を生じることがある。さらに,暫間補綴装置の強度不足によって,歯周病変の進行抑制に困難が生じることがある。
 暫間補綴装置では歯周病変の進行抑制に限界を生じる例としては,(1)義歯の前処置としての支台歯の補綴症例,(2)多数歯に対する固定が必要な症例,(3)支台歯に側方運動のガイドを付与したい症例などをあげることができる。義歯の支台歯の場合には,レジン製の暫間被覆冠ではなく,レスト座とガイドプレーンを付与した金属冠を装着する必要がある。多数歯に対する固定においても,一定期間安定した咬合を得るためには,レジンではなく金属かセラミックなどの耐摩耗性の高い材料の使用が求められる。いずれの症例においても早期に最終補綴装置を装着して咬合の確保を得ることが好ましい。
 この歯周病患者における早期補綴の提言は,あくまでも咬合性外傷のコントロールによって歯周治療を効果的に進めることを目指しており,患者の希望に沿ってのみ行われるわけではない。咬合性外傷の関与が強く疑われる歯周病患者においてのみ,治療の選択肢の一つとして早期補綴治療を提示する。また早期補綴治療を行う場合には,当該歯の歯周基本治療は終了していることを必要条件とする。患者には,なぜ補綴歯科治療を先行するのかを十分に説明するとともに,歯周治療を完了しないまま来院しなくなると,歯周病の進行を招く結果となってしまうことを理解してもらう。さらに歯周病と全身疾患との関連が注目されるなか,歯周病の治療が口腔内の健康状態を保つことのみでなく,全身の健康に寄与することの重要性を認識してもらうことが必要である。

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© 2009 特定非営利活動法人 日本歯周病学会
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