2021 年 63 巻 2 号 p. 73-84
歯周治療後にSPTまたはメインテナンスに移行するためには,病状安定または治癒と判定できる一定の基準を満たすことが必要不可欠である。しかしながら,歯周治療の目的はSPTまたはメインテナンスに移行することではなく,移行後に良好な状態を長期にわたり維持することである。SPT期間中には動的治療中とは異なり,患者は日常生活に忙殺されセルフケアや定期受診へのモチベーションが低下しがちである。SPTを長期にわたり継続するためには,歯周治療に関わる技術的なことだけでなく,患者に寄り添いつつ,良好な信頼関係を維持し続けることが必要不可欠である。さらには,たとえ長期的なSPTが継続できたとしてもSPT移行時の口腔内環境がいつまでも継続するとは言い難く,ましてや包括的治療を行った症例での長いSPT期間の中では,補綴装置や歯根の破損・破折,保存可能と判断した部位の病状悪化,患者自身の加齢や全身疾患の発症など,さまざまな要素が複雑に関与してくる。
本症例では広汎型侵襲性歯周炎患者に対して,歯周組織再生療法,歯周形成外科,インプラント,矯正治療などを併用した包括的治療を約3年間行った後にSPTへと移行したが,約9年後に再介入が必要となり再び動的治療を行ったのちに再度SPTへと移行した。本発表では初診から現在までの約15年間,またそれ以前の医療面接から得られた情報を加えると約30年の経過を振り返り考察した。
広汎型侵襲性歯周炎患者への対応は困難な場合が多い。その理由は,歯周組織の破壊の程度が進行しているにも関わらず若年者が多いことから,機能的,審美的または経済的な要素など社会的な背景への配慮が必要であり,抜歯の判定と抜歯後の口腔機能回復の方法,患者の余命が長く長期的な維持療法が求められる,など考慮すべき点が非常に多いことである1-5)。
また,たとえ歯周治療後に病状安定または治癒と判定できる一定の基準を満たすことができ,SPTに移行できたとしても,SPT期間中には動的治療期間とは異なり,患者は日常生活のなかで,セルフケアや定期受診へのモチベーションが低下しがちである。
SPTを長期にわたり継続するためには,歯周治療に関わる技術的な側面だけではなく,患者に寄り添い,良好な信頼関係を維持し続けることが必要不可欠である。さらには,たとえ長期的なSPTが継続できたとしても,SPT移行時の口腔内環境がいつまでも維持し続けるとは言い難く,ましてや包括的治療を行った症例での長いSPT期間の中では,補綴装置の破損や歯根の破折,保存可能と判断した歯の病状悪化,患者自身の加齢や全身疾患の発症など,さまざまな要素が複雑に関与してくる6)。本症例では広汎型侵襲性歯周炎患者への包括的治療を終え,その後のSPT期間中に起こったいくつかの問題について考察した。
なお,本症例を発表するにあたり,発表の場,発表内容を説明し患者の同意を得ている。
患者:33歳,男性
初診:2005年2月
主訴:歯周病の進行状態と当院での治療方針を知りたい
全身的既往歴:特記事項なし
歯科的既往歴:18歳頃から,歯ブラシ時に毎回出血することを自覚していた(1990年頃)が,かかりつけ歯科医院では歯ブラシ指導のみでX線撮影の記憶もない。その後,28歳頃には多発的な歯肉腫脹を繰り返すことから大学病院を紹介され,そこでは全顎的なフラップ手術を受けたとのことである。しかしながら,その後もしばしば腫脹を繰り返すことから,歯周病治療を諦めてインプラント治療を求めて医学部の口腔外科を受診した。そこでは,重度の歯周病患者であるために,現状ではインプラント治療はできないと説明され,歯周病専門医に相談すべきと当院を紹介された。
家族歴:詳細は不明ではあるが,両親は比較的若い年齢から義歯への不満を言っていた記憶があるとのこと。
生活習慣,習癖など:特記すべき事項なし(非喫煙者)
口腔内所見:12,26に著しい歯肉の退縮が,上下顎前歯部には叢生が認められた。
エックス線検査:上下左右の第一大臼歯および前歯部に著明な骨吸収が認められた。
歯周組織検査:現在歯数は智歯を含めて32本,平均ポケットデプスは3.5 mm(192点)であり,4~5 mm(中度)は34.9%,6 mm以上(重度)は6.8%であり中度・重度の合計は41.7%であった。BOPは61.5%,PISAは1362.7 mm2,PESAは2165.7 mm2と高い数値を示していた (図1-4) 。

初診時の口腔内写真(2005年2月)

初診時のデンタルX線写真14枚法(2005年)

初診時のパノラマX線写真(2005年2月)

初診時の歯周組織検査(2005年2月)
広汎型侵襲性歯周炎(Stage 3 Grade C)
診断結果①組織破壊の程度(ボーンロスあるいはアタッチメントロスの割合)による歯周炎の分類では,軽度(30%未満)は無し,中度(30%~50%)は,16,11,32,41の4歯,重度(50%以上)は14,12,21,22,26,36,42,46の8歯であった。
②炎症の程度による歯周炎の分類では,最大のポケットデプス(以下PD)は10 mm,重度(PD 6 mm以上)は13/192部位(6.8%),中度(PD 4~5 mm)は68/192部位(35.4%),軽度または正常(PD 4 mm未満)は111/192(57.8%)であった。
1,歯周基本治療
プラークコントロール,スケーリング・ルートプレーニング
18,12,26,28,38,36,42,46,48抜歯
2,再評価検査
3,歯周外科治療
4,再評価検査
5,口腔機能回復治療
6,再評価検査
7,SPT
2005年2月初診,歯周基本治療後,12,26,36,42,46は予後不良と判定し抜歯した。全顎的な歯周外科処置(再生療法)後,12(CTG,矯正的挺出,GBR併用),26(GBR併用),36(GBR,上顎洞底挙上術併用),46(GBR併用)にインプラント,42は矯正にてスペースの閉鎖,16,15,14および11,21,22部はそれぞれ連結冠を装着し,その後2008年にSPTへと移行した。BOP(+)は初診時の61.5%から3.6%,PISAは初診時の1362.7 mm2から47.4 mm2,PESAは初診時の2165.7 mm2から1092.2 mm2へと減少していた (図5-7) 。

SPT移行時の口腔内写真(2008年2月)

SPT移行時デンタルX線写真14枚法(2008年2月)

SPT移行時の歯周組織検査(2008年2月)
2008年2月,歯周病専門医である担当歯科医師と認定衛生士が共診断し病状安定と判断したことからSPTへと移行した。その後は良好に経過し3ヶ月毎のSPTを受診しておりセルフケア,モチベーション共に問題はなかった。しかし2016年頃には上顎右側臼歯部,特に16歯肉から持続的な排膿と腫脹が頻発するようになり,上顎前歯部は11,21,22の連結冠が動揺し前歯での食事に不自由を感じるとのことであったことから医療面接を行った。患者側の要素としては父親と共同経営していた事業を清算し自身は企業への勤務となったことに大きなストレスを感じていたとのことであり,リスクファクターと考えられる。さらに,患者自身は2005年の医療面接で,これらの歯は長期予後について不安であり抜歯の提案を受けたことを記憶していた。すでに5本のインプラントを予定しており,再介入の可能性はあったとしても保存の可能性がある歯は残したいとの強い希望があり,これらの部位は歯の保存に努めたが結果として再介入になった。しかし患者からは,「ここまで歯の保存に努めてくれたことは感謝しており,初診時に言われた時期が来たのだと理解している」と好意的に発言していただいたことは救いであった。歯周組織検査では16に6 mmの歯周ポケットが存在し,同歯PISAは65 mm2,PESAは129 mm2と高い値を示した。上顎前歯部はすでに12部にインプラントが存在することから,患者自身の希望は動揺歯3本を抜歯し,22部へインプラントを追加,12のインプラントとともに11,21ポンティックとした4ユニットのインプラントブリッジであった。
17,27はPISA,PESAともに高い数値を示したが基本治療で改善したことからここでは省略する。2018年3月に再介入を終え,病状安定と判断できたことから,2018年3月に再びSPTへと移行した (図8, 9) 。

再介入時の歯周組織検査(2016年6月)

再介入時の1歯単位PISA/PESA(2016年6月)
2005年当時,14の判断については苦慮した。劣型の歯根形態を考えれば抜歯の方が良かったのかもしれないが,11年間は保存できたことには意義があると考える。16の分岐部病変は,遠心頬側根―口蓋根が2度,頬側は2度であったことから歯周組織再生療法(自家骨+EMD)を行なった。2016年の再介入時には患者と相談のうえ,歯肉弁を剥離し,直視にて保存の可否を判断し,保存不可と判断した場合には抜歯を行うこととした。患者は2005年当時の著者の説明を記憶しており,「すぐに抜歯になるとは考えにくいが5年,10年後にはその時が来るかもしれない」と説明されたとのことである。結論として,16,14は抜歯したが,抜去歯を観察してみると,16は口蓋根周囲の骨吸収が顕著であり,根分岐部に多量の歯石沈着が認められた。SPT移行時に病状安定と判断した同歯がここまで進行した原因として有髄にて歯冠補綴した歯の失活とそれに続発する歯内―歯周病変が考えられる。14は歯根離開が少なく歯根形態は劣型であったことから歯冠/歯根比は悪く咬合支持能力が低いために最初の治療計画で抜歯と判定した方が良かったと反省した。その後は,すでに14が処置歯であり,16部には上顎洞底が低位にあることから,17,15を支台歯,16をポンティックとする3ユニットブリッジを選択し,14は13が健全天然歯であることからインプラントを選択した (図10, 11) 。

上顎右側臼歯部の歯槽骨形態の比較
(左:2006年7月),(右:2016年8月)

抜去歯(14,16)の所見(2016年9月)
2005年当時の治療方針では,12は抜歯し,インプラントを埋入(+矯正的挺出,CTG,GBR)した。11は軽度の水平性骨吸収であったが,21は水平性骨吸収が進行しており,22が捻転していることから21-22間はカップ状の骨吸収像が認められた。当時は歯冠補綴による固定をすることから部分矯正を考えなかったことは歯に加わる咬合力の方向を考慮すると必要な処置であったと考える。21,22の歯冠/歯根比に関しては1/2を下回っており,これらも保存可と判定したことに反省が残る。加えて,11,21,22はSPT中に失活となり根尖性歯周炎を発症した。歯冠補綴された歯であったことから根尖部の腫脹が起こるまで判明せずに経過したがその後の歯内治療にて症状は改善した。再評価後に,12インプラント上部構造装着,11,21,22はメタルセラミック冠にて連結固定とした。
2016年の再介入時では患者みずからが前歯3本の抜歯を希望したが,その理由は「歯の動揺が激しく,審美領域であることから,いつ抜けるかと心配である」とのことであった。当初は前歯3本の抜歯を検討していたが,テンポラリークラウンに置換して咬合調整をしているうちに動揺が軽減したことから,患者と相談の上,12部はインプラントネック部の炎症性組織を掻爬した後に上部構造を再製した。11根尖部には圧痛があったことから歯根端切除術,11,21,22はオープンフラップキュレッタージを行なった。その後,部分的矯正治療で22の捻転を除去し,最後に21,22間に結合組織移植を行なった (図12, 13) 。

再介入時の口腔内写真(上顎前歯部)時期 2017年3月~10月
①オープンフラップキュレッタージおよび歯根端切除術 ②術後3週間経過時 ③部分矯正およびプロビジョナル調整後 ④結合組織移植時

初回治療時の口腔内写真(上顎前歯部)時期:2005年6月~12月
①②歯周組織再生療法時(自家骨+EMD) ③12の矯正的挺出後 ④12抜歯および結合組織移植時 ⑤12部のインプラント埋入+GBR時
再介入後,2018年3月に再びSPTへと移行した。SPT移行時には再介入時にあった問題点は全て解決していた。
口腔内所見:再介入を行った部位,継続的にSPTが行えている部位共に歯肉に炎症所見は認められず清掃状態も良好であった。
エックス線検査:天然歯およびインプラント周囲の歯槽硬線は明瞭であった。
歯周組織検査:現在歯数は21本,平均ポケットデプスは2.1 mm(126点)であり,4 mmは1ヶ所であった。BOPは3.2%,PISAは35.0 mm2,PESAは866.4 mm2であった (図14-18) 。

再SPT移行時口腔内写真(2018年3月)

再SPT移行時デンタルX線写真14枚法(2018年3月)

再SPT移行時の歯周組織検査(2018年3月)

最新SPT時の歯周組織検査(2020年6月)

最新SPT時の1歯単位PISA/PESA(2020年6月)
11,21,22:2005年での治療方針にて動揺歯の管理および患者自身が審美性の改善を希望したことからセラミッククラウンによる連結固定を選択したが,SPT期間に歯髄が失活し根管治療が必要となった。その後,再介入時にはプロビジョナルレストレーションを作製し,動揺度が生理的範囲にまで回復したことから,21-22部に部分矯正および歯間乳頭再建術(結合組織移植)を行った後にセラミッククラウンの再製を行なった。患者は審美性,清掃性の両面からこの治療結果に満足している (図19) 。

形態的評価
2008年にSPTへ移行した当時と同様に左右側ともに健全天然歯による犬歯ガイドの咬合様式が確立しており,非作業側での臼歯離開も確保できている。フレミタスは触知せず,咬合痛および顎関節症状も認められないことから現在の咬合関係は機能的に問題がないと推察される。前歯部に関わる発表では解剖学的形態的な評価にフォーカスが当たることが多いが,形態は機能に追随するという形態学の原則に基づき生理学的な観点から機能的評価を添えることは極めて重要であると考える (図20)。

機能的評価 ①:右非作業側 ②:左作業側 ③:右作業側 ④:左非作業側
侵襲性歯周炎は家族的集積,遺伝的要素が議論されていることから,本症例患者の家族についても受診をうながし調査した。本症例患者(父親)と,その配偶者(侵襲性歯周炎非発症者),実娘(侵襲性歯周炎非発症者)の3名を比較すると,実娘の歯の形態は本症例患者(父親)に似ている。しかしながら,15歳の時点において侵襲性歯周炎を予測できるような所見は認められないことから矯正治療を進めている。
もしも何か侵襲性歯周炎を疑う兆候が見つかれば,直ちに矯正治療を中断することを事前に説明している。しかしながら,矯正治療による咬合の安定化や清掃状態の向上は,歯周治療におけるSPTやメインテナンスには有利に作用することから侵襲性歯周炎の発症の有無にかかわらず重要であると考える。
2005年当時,初診時において抜歯か保存かの判断に苦慮した16,14を歯周治療の指針20153)に基づいて再度診断してみるとどちらも重度判定であった。同じく再介入した11(中度),21(重度),22(重度)を含めると重度と判定されるが保存を試みた歯11歯のうち5歯は抜歯したが,保存した6歯のうちの4歯が再介入となってしまったことは反省である。しかしながら逆の表現をすれば中度,軽度の歯のうち再介入となったのは11歯のうち1歯だけであり,歯周治療の長期的な予後を実証する結果となった (図21) 。
筆者は,患者の一生を4つに区分している。人生の始まりである若々しく元気な青年期(16~29歳),今まさに人性を謳歌する力強い壮年期(前期30~39歳,後期40~49歳),全てにおいて落ち着きを身につけ思慮深い中年期(前期50歳~59歳,後期60歳~69歳),人生の締めくくりとして穏やかに過ごす老年期(70歳~)である。それぞれのステージにおいて歯科治療における注意点は異なる。ましてや長期的なメインテナンスが求められる歯周病患者では患者のライフサイクルに配慮することはきわめて重要である6)。現在目の前の患者はどのステージにいるのか,そしてその先にはどのようなステージが待っているのかを考えながら患者と向き合うことが重要である (図22) 。
本症例は,2005年つまり筆者が45歳の時に,33歳の患者を担当し,2008年にはSPTへと移行した。SPT移行後,2016年頃に,17・16・15・14および,12・11・21・22部に再介入の必要性が生じた。残念ながら,16および14は抜歯となった。11・21・22部は再介入時の診断では抜歯と判定したが,最終的には保存することができた。
現在,患者は47歳である。次の10年で筆者は69歳,患者は57歳になる。その頃には筆者自らが再々度の介入は難しいであろう。しかしその時の患者は未だ57歳,まだまだ人生が続くであろう。もしもそこで11・21・22が抜歯となっても,そこから次世代の担当医がインプラントを導入し,そのインプラント治療が仮に15年機能したとしたら筆者は84歳,患者は70歳になっていることになる。あくまでも仮定ではあるが,もしも筆者が45歳で担当させていただいた患者の経過を84歳まで経過観察できるとしたら素晴らしいことだと考える。このように,歯周病治療とは患者のライフサイクルに配慮し,長期にわたり寄り添い続けることが重要であり,そのためには常に患者と近い距離で接している歯科衛生士の立場や役割を歯科医師が理解することが必要となる。また,抜歯を検討する前に,最大限に歯の保存に努め,インプラントの導入時期を遅くすることは患者の利益に寄与すると考える。今後もさらに注意深いSPTを継続し,いつの日かまた本症例の経過を発表する機会を得ることを願う。

初診時診断および治療方針と再介入が必要となった部位の検証

年表
本論文の要旨は第61回春季日本歯周病学会学術大会(2019年5月25日神奈川)において発表した。
今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。