日本歯周病学会会誌
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63 巻, 2 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
ミニレビュー
原著
  • 石原 匠, 松岡 紘史, 長澤 敏行, 古市 保志, 辻 昌宏, 千葉 逸朗
    2021 年 63 巻 2 号 p. 47-60
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/07/08
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    歯周病が循環器疾患の発症に影響を与えることを示唆した報告はいくつかあるが,交絡因子となる幅広い因子を一度に調整した研究は殆どない。本研究の目的は,多数の交絡因子を調整するために健康保険の大規模なレセプトデータを用い,歯周病の病態や歯周治療が循環器疾患の発症に及ぼす影響を明らかにすることであった。

    全国健康保険協会(協会けんぽ)北海道支部に所属し,2014年に特定健康診査を受診し歯科受診をしていない者235,779名を対象とし,特定健診データ,医科及び歯科レセプトデータを用いて分析を行った。2015年の歯科レセプトを使用し「歯科受診なし」,「歯科受診1~4回」,「歯科受診5回以上」の3つの対象者分類に区分した。2015年と2016年における脳梗塞と心筋梗塞の新規発症の有無を目的変数,2015年の対象者分類と交絡因子を説明変数とするロジスティック回帰分析を行った。

    2015年の脳梗塞の発症を用いたロジスティック回帰分析の結果,歯科受診なしを基準とした場合,1~4回及び5回以上の脳梗塞発症に関するオッズ比が有意であり(1~4回:1.95,5回以上:1.63),歯周病によって脳梗塞の新規発症リスクが高まる可能性が示唆された。また,2016年の脳梗塞の発症を用いた場合でも同様の結果が得られており(1~4回:1.63,5回以上:1.61),歯周治療の開始から1年が経過しても脳梗塞発症のリスクは変化していない可能性が示唆された。

トピック紹介
症例報告レビュー
  • 若林 健史
    2021 年 63 巻 2 号 p. 66-72
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/07/08
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    限局型慢性歯周炎の患者に歯周基本治療,口腔機能回復治療及びサポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)を行い29年以上にわたり良好に口腔機能維持している症例について報告する。本症例では歯周基本治療において十分な臨床的改善が見られ口腔機能回復治療,SPTに進むことができた。口腔機能を長期に維持安定させるためには動的歯周治療後SPTに入ってからも口腔内の変化を注意深く観察しSPT中に問題が生じたときは必要に応じて積極的な介入も必要になると思われる。SPT中に分岐部病変を有する2歯のうち1本の歯を失ったがもう1歯は適切なメンテナンスにより根分岐部病変の進行を抑えることにより長期的に保存することができている。これらのことから歯周病治療により口腔内を長期的に管理することの難しさを実感している。

症例報告
  • 牧草 一人, 福岡 拓郎, 井辻 佐知
    2021 年 63 巻 2 号 p. 73-84
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/07/08
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    歯周治療後にSPTまたはメインテナンスに移行するためには,病状安定または治癒と判定できる一定の基準を満たすことが必要不可欠である。しかしながら,歯周治療の目的はSPTまたはメインテナンスに移行することではなく,移行後に良好な状態を長期にわたり維持することである。SPT期間中には動的治療中とは異なり,患者は日常生活に忙殺されセルフケアや定期受診へのモチベーションが低下しがちである。SPTを長期にわたり継続するためには,歯周治療に関わる技術的なことだけでなく,患者に寄り添いつつ,良好な信頼関係を維持し続けることが必要不可欠である。さらには,たとえ長期的なSPTが継続できたとしてもSPT移行時の口腔内環境がいつまでも継続するとは言い難く,ましてや包括的治療を行った症例での長いSPT期間の中では,補綴装置や歯根の破損・破折,保存可能と判断した部位の病状悪化,患者自身の加齢や全身疾患の発症など,さまざまな要素が複雑に関与してくる。

    本症例では広汎型侵襲性歯周炎患者に対して,歯周組織再生療法,歯周形成外科,インプラント,矯正治療などを併用した包括的治療を約3年間行った後にSPTへと移行したが,約9年後に再介入が必要となり再び動的治療を行ったのちに再度SPTへと移行した。本発表では初診から現在までの約15年間,またそれ以前の医療面接から得られた情報を加えると約30年の経過を振り返り考察した。

  • 江部 由佳梨, 迫田 賢二, 川上 克子, 下田平 貴子, 鉛山 光世, 野口 和行
    2021 年 63 巻 2 号 p. 85-95
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/07/08
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    高血圧患者への降圧薬として用いられるカルシウム拮抗薬は,歯肉増殖症を発症させることが知られている。歯肉増殖症は著しい歯肉の増殖に加え,歯列不正など,審美的な問題を生じることがある。その発症機序については不明な点も多いが,プラークは歯肉増殖症発症の病因に関係している。治療としては,可能であれば内科医へ薬剤の変更依頼,プラークコントロールとスケーリング・ルートプレーニングを中心とした歯周基本治療を行い,必要に応じて歯周外科手術が適応となる。本症例報告患者は高血圧症を有する41歳男性で,カルシウム拮抗薬による薬物性歯肉増殖症を伴う慢性歯周炎(ステージIII,グレードC)と診断され著しい歯肉腫脹,出血,上顎前歯部の動揺と歯列不正をきたしていた。内科医による服用薬の変更後,口腔衛生指導およびスケーリング・ルートプレーニング(SRP)やPMTCなどの歯周インフェクションコントロールを徹底し,再評価後,歯肉増殖は改善されたが,4 mm以上のプロービングデプスが残存した。患者が多忙であり歯周外科の同意が得られないため,再SRPと局所薬物配送システムを行った。また,患者には繰り返しプラークコントロール,プロフェッショナルケア,血圧コントロールの重要性を説明し,モチベーションを高めた。その結果,非外科的歯周治療のみで良好な歯周組織状態及び歯列の改善が得られた。

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