日本歯周病学会会誌
Online ISSN : 1880-408X
Print ISSN : 0385-0110
ISSN-L : 0385-0110
原著
COVID-19対策で実施した臨床実習におけるスケーリング技能に対するWeb自宅学修方法と教育評価
小出 容子大谷 貴之滝口 尚菅野 真莉加山本 松男
著者情報
ジャーナル フリー HTML
電子付録

2022 年 64 巻 2 号 p. 66-75

詳細
要旨

研究目的:2020年度昭和大学歯学部(本学)臨床実習は,COVID-19対策で登院学生数の調整のため外来実習日数の半減とシミュレーション実習時間を削減した。実習を補足する目的でWeb自宅学修を実施したが,臨床実習を補足する教育効果がどの程度であるか明らかではなかった。本研究の目的は,2020年度(試験群)と2019年度(対照群)の臨床実習実技試験(鎌型スケーラーによる模擬歯石除去)点数を比較評価することで,臨床実習におけるWeb自宅学修の教育効果を明らかにする。

方法:第5学年臨床実習生(2019年度111名,2020年度90名)を対象とした。実技試験点数(OSCE点数)の平均値を試験群と対照群毎に算出して比較した。また,Web自宅学修およびシミュレーション実習の履修時期,Web自宅学修評価(鎌型スケーラーによる模擬歯石除去)との関連を解析した。

結果:試験群のOSCE点数は対照群より低かったが,有意差は認められなかった。また,Web自宅学修およびシミュレーション実習の履修時期の違いによる影響はみられなかった。Web自宅学修,シミュレーション実習後のOSCE点数はWeb自宅学修評価と比べて有意に高かった。

結論:Web自宅学修は臨床実習を補足する教育効果をある程度持つ可能性が考えられた。

Abstract

Objective: The purpose of this study was to determine the educational impact of online classes on clinical training, by comparing and evaluating the clinical training examination scores between 2019 and 2020. As a precaution against the spread of COVID-19, we reduced the number of clinical training days in our outpatient department by half. The simulation training time for the 2020 clinical training batch at our university was also reduced. Online classes were initiated to supplement the clinical training. However, the educational impact of such changes in the clinical training schedule is not clear.

Method: Fifth-year students attending the Showa University School of Dentistry (111 students of the 2019 batch and 90 students of the 2020 batch) participated in this study. The average examination scores of the students (examination conducted on simulated tartar removal with a sickle scaler) in both years were calculated and analyzed. Additionally, we analyzed the correlations between the clinical examination scores of the students after the simulation training and the order in which the students took the simulation training (we divided the students taking the online classes into two groups and those taking the simulation training into three groups, with classes for each conducted on a different day of the week, due to limitations in the number of instruments available). To confirm that this division of students into different groups did not affect the examination scores, and also determine the correlations between the clinical examination scores and the scores on the online class assignment (simulated tartar removal using a sickle scaler), we compared the clinical examination scores with the scores on the online assignment.

Results: The scores in the clinical training examination held in 2020 were lower than those in the examination held in 2019, although the difference was not significant. Dividing the students taking the online classes and simulation training into different groups did not have any statistically significant effect on either the clinical examination scores or on the scores on the online class assignments. The scores of the students in the practical examinations after the online classes and simulation training were significantly higher than the scores in the completed online class assignments.

Conclusion: The clinical examination scores of the students were lower in 2020 than in 2019 due to the reduction in the number of training days to half and the decrease in simulation training time. However, the difference was not significant. Based on the results, it is considered that online classes can be used as a supplement to clinical training.

緒言

昭和大学歯学部(本学)では第4学年の3月,第5学年の4月から2月,第6学年の4月から5月に臨床実習を実施している。5年次臨床実習は,補綴系,保存系,口腔外科・全身管理,矯正・小児・放射線の4グループに分け,学生が各グループを11週ずつローテーションする。保存系臨床実習は,歯内治療科,美容歯科,歯周病科,総合診療歯科の4科が合同で担当し,半日を1回と計上して外来見学(各科最低15回以上)およびシミュレーション実習(4科合わせて計13回)を課している。

2020年度の本学第5学年は,2020年1月下旬からのCOVID-19感染拡大に伴い2020年3月に予定していた4年次の臨床実習をWeb自宅学修に変更した。4月の緊急事態宣言の発令により全学生の登校が原則中止され,5年次に通年で行っていた座学講義を前倒ししてオンラインで受講するWeb自宅学修に変更した。緊急事態宣言の解除に伴い臨床実習を6月から開始したが,COVID-19対策として登院学生数を半減させ,実習開始時間を遅らせることになったため,臨床実習の総時間は例年より大幅に縮小されることになった。これにより,保存系臨床実習では外来見学実習は86回から41回へ,シミュレーション実習は13回から7回へ削減されたため,実習内容を補足する目的でWeb自宅学修を27回実施した。当科が担当した7回のWeb自宅学修のうち1回分で,模擬歯石除去の動画視聴と練習を実施し,模擬歯石を除去した歯石スティックを成果物として提出させて評価した。そして,保存系臨床実習が終了する前週に実施される4科合同実習試験(OSCE形式)において歯周病学は模擬歯石除去に関する技能および態度を評価した。

COVID-19の感染拡大に伴い,多くの大学で講義や実習時間の短縮,対面講義実習の中止,リモート講義,Webカンファレンス参加による臨床実習の実施報告がある1-7)。しかしながら,COVID-19前後での成績の変化,リモート講義やWebカンファレンス参加による臨床実習における学習効果に及ぼす影響を解析した報告はなく,Web自宅学修に臨床実習を補足する教育効果がどの程度あるかは明らかではない。

本研究の目的は,2019年度と2020年度の実習試験点数を比較評価することで,臨床実習における実習試験に関連するWeb自宅学修(模擬歯石除去の動画視聴と練習を実施,模擬歯石を除去した歯石スティックを成果物として提出させて評価)の教育効果を明らかにすることである。なお,本研究は臨床実習における臨床技能習得を補足する目的で実施したWeb自宅学修の教育効果を検討した研究で,我々の調べた限り日本において初めての報告である。

対象および方法

1. 対象および研究デザイン

本研究は,昭和大学歯学部第5学年学生(2019年度111名,2020年度90名)のうち研究への参加に文書で同意の得られた臨床実習生を対象とし,昭和大学における人を対象とする研究等に関する倫理委員会(歯学部および歯学研究科)の承認を得て行われた(承認番号2020-003)。

COVID-19対策で実習時間の減少およびWeb自宅学修を実施した2020年度臨床実習を試験群,COVID-19対策以前の2019年度臨床実習を対照群とした。2020年度保存系4科合同臨床実習(試験群)は,実習期間8週間の中で外来参加型実習41回(半日/回,歯周病科実習を最低10回以上),シミュレーション実習7回(半日/回,歯周病科実習2回),Web自宅学修27回を午前9時40分から12時,午後1時40分から17時に実施された。このため,試験群の臨床実習生は,外来参加型実習,シミュレーション実習,Web自宅学修のいずれか3つにスケジュールを半日毎で割り振られた。一方,2019年度保存系4科合同臨床実習(対照群)は,実習期間11週間の中で外来参加型実習86回(半日/回,歯周病科実習を最低15回以上),シミュレーション実習13回(半日/回,歯周病科実習を4回)を午前8時50分から12時,午後1時から17時に実施された。保存系臨床実習の臨床実習生は,外来参加型実習,シミュレーション実習のいずれかにスケジュールを半日毎で割り振られた。

2. 使用した器材

本研究では,鎌型スケーラー(スケーラーポイント式医歯大型#3A;スケーラーポイント式医歯大型#3B;ハンドル(ポイント式用)P-C,株式会社YDM,東京),ゴールドマンフォックス/ウィリアムズ歯周プローブ[(歯周プローブ)PGF/W,Hu-Friedy,Chicago,IL,USA],歯石除去実習用スティック(PER1013-T-HDI,株式会社ニッシン,京都)を使用した。本研究で使用された器材はすべて本講座が準備して,Web自宅学修の前日に臨床実習生に貸与した。器材の数に制限があったため,臨床実習生を2グループに分けてWeb自宅学修を実施した。Web自宅学修で使用した器材は,シミュレーション実習,臨床実習実技試験でも使用した。Web自宅学修で視聴させた動画の詳細は,後述する。

3. Web自宅学修(模擬歯石除去に関する動画視聴と模擬歯石除去の実施)

試験群の臨床実習生は,Web自宅学修で実施した模擬歯石除去に関する動画(後述参照)視聴と模擬歯石除去を8週間の保存系臨床実習の第1週目水曜または第2週目木曜に実施した。第1週目,第2週目実施の臨床実習生の割り振りは,本講座以外の保存系臨床実習スケジュール作成者が実施した。本講座臨床実習担当教員AがWeb自宅学修のスケジュールに合わせてGoogle Classroomを用いて臨床実習生に動画や資料を配信し,臨床実習生が自宅等の学外の環境で動画や資料を配信後いつでも視聴できる環境にした。

模擬歯石除去に関する動画は,シミュレーション実習の予備学習のために歯周病学基礎実習用顎模型(PER1032-UL-SP-DM28,株式会社ニッシン,京都)の歯肉縁上歯石を鎌型スケーラーで除去している動画(12分)と,模擬歯石除去を練習するために歯石除去実習用スティックの模擬歯石を鎌型スケーラーで除去している動画(6分30秒)2本を本講座臨床実習担当教員Aが作成した。動画作成の際,歯石除去に関する器材および操作の際の注意事項,歯石除去の確認方法に関する字幕をつけた。

臨床実習生は,はじめにWeb自宅学修の動画視聴の順番や学修手順,提出物の締切日等が記された概要(PDFファイル,Supplement Figure 1)を確認し,上記2本の動画視聴後に歯石除去実習用スティックの模擬歯石15か所の除去を貸与された鎌型スケーラーと歯周プローブを用いて自宅で実施した。なお,歯石除去に要する時間について特別な制限を設けなかった。臨床実習生は,スケーリングおよびルートプレーニングに関するシミュレーション実習の事前学習レポートの作成,歯石除去に関する多肢選択式問題(Multiple Choice Question;MCQ)3問をGoogleフォームで回答送信した。翌日登院した際,臨床実習生は貸与された鎌型スケーラー,歯周プローブ,成果物として模擬歯石を除去した歯石除去実習用スティックとシミュレーション実習事前学習レポートを担当教員Bに提出した。

4. Web自宅学修評価

本講座臨床実習担当教員Bが臨床実習生から提出された歯石除去実習用スティックの模擬歯石除去の状態を評価した。模擬歯石除去は,拡大鏡下の視認と歯周プローブを用いた触知で総合的に評価した(最高値30点,最小値-38点)。なお,模擬歯石除去評価基準の詳細は学生に公表していないため詳述を差し控えるが,臨床実習実技試験の模擬歯石除去評価基準と同一とした。

5. シミュレーション実習

臨床実習生は,試験群は保存系臨床実習第4~6週目,対照群は保存系臨床実習第2~4週目の木曜午前に3グループに分かれてスケーリングおよびルートプレーニングに関するシミュレーション実習を受けた。シミュレータ室の器材設備が10名分のため,8名または9名/グループで実施した。第2~4週および第4~6週への臨床実習生の割り振りは,本講座以外の保存系臨床実習スケジュール作成者が実施した。

スケーリングおよびルートプレーニングに関するシミュレーション実習は,模型人工歯(上顎左側第一大臼歯,下顎右側第一大臼歯)のセメントエナメル境から歯槽骨縁上歯面に歯肉縁下歯石を想定して油性ペンで塗ったSRP実習用模型(P15FE-500HPRO-S2B1-GSF,株式会社ニッシン,京都)をマネキン(P-6/3 TKL,frasaco GmbH,Tettnang,Germany)に装着して実施するルートプレーニングと,歯周病学基礎実習用顎模型をマネキンに装着して歯肉縁上歯石の除去を実施した。本講座臨床実習担当教員CおよびDの2名が指導した。

6. 臨床実習実技試験(OSCE点数)

保存系臨床実習の実習試験[鎌型スケーラーによる模擬歯石除去]として,試験群は保存系臨床実習第7週目月曜に4科合同試験の1課題(OSCE形式)の中で歯石除去実習用スティックの模擬歯石5か所除去(試験時間8分間,最高値15点,最小値0点),対照群はmini-OSCE形式で保存系臨床実習第5週目月曜に歯石除去実習用スティックの模擬歯石2か所除去(試験時間3分間,最高値5点,最小値0点)を行った。試験群,対照群ともに本講座臨床実習担当教員Aが技能および態度を評価した。模擬歯石除去は,拡大鏡下の視認と歯周プローブを用いた触知で総合的に評価した。点数は,試験群,対照群ともに100点換算したものを解析に用いた。なお,模擬歯石除去評価基準の詳細は学生に公表していないため詳述を差し控えるが,Web自宅学修の模擬歯石除去評価基準と同一である。

7. 統計解析

OSCE点数は,試験群と対照群の点数を100点換算した後,点数の平均値を年度毎に算出して試験群と対照群の値を比較した。なお,100点換算した式を以下に示す:(試験群点数/15)×100=(100点換算後の試験群点数),(対照群点数/5)×100=(対照群の100点換算後の対照群点数)。また,Web自宅学修およびシミュレーション実習は同じ内容でそれぞれ学生を2グループと3グループに分けて実施しているため,履修時期による実習試験結果への影響と,Web自宅学修評価(鎌型スケーラーによる模擬歯石除去)の点数と関連がみられるか解析した。なお,第5学年次に留年して臨床実習2回目の学生が試験群4名,対照群9名いたため,解析から除外した。OSCE点数およびWeb自宅学修評価,年齢等の連続変数を比較するにあたり,はじめに結果が正規分布および等分散に従うか検定した。正規分布の場合は平均値と標準偏差,正規分布しない場合は中央値と四分位範囲を提示した。検定の結果に従い,正規分布で等分散の2群間の比較はStudent's t-test,正期分布だが等分散ではない2群間の比較はWelch's t-test,正期分布していない2群間の比較はWilcoxon rank sum testで実施した。また,3群内のすべての群を比較する多重比較検定として正規分布の場合は分散分析(analysis of variance:ANOVA),正期分布していない場合はSteel-Dwass testで実施した。性別等の名義変数の比較は,Fisher's exact testで実施した。Web自宅学修評価とOSCE点数の関係は,点数が正規分布する場合はPaired t-test,点数が正規分布しない場合はWilcoxon signed-rank testを用いた。評価者が異なるOSCE点数とWeb自宅学修評価を比較するため,教員AとBの評価の整合性を級内相関係数(intraclass correlation coefficients:ICC)で調べた。統計解析は,JMPPro 15.0(SAS Institute,Cary,NC,USA)を用い,解析においてはP < 0.05を有意とした。

結果

1. 対象者

対象者の特徴をTable 1に示す。試験群の臨床実習生の男女比,年齢,留年経験について,対照群と比較して統計学的有意差は認められなかった。

Table 1

被験者の特徴

試験群(2020年度)の学生の男女比,年齢,留年経験は,対照群(2019年度)と比較して統計学的有意差は認められなかった。

2. OSCE点数の比較

第5学年の臨床実習が1回目の臨床実習生(試験群86名,対照群102名)のOSCE点数の結果を示す。試験群の点数は,平均値58.53点(標準偏差16.45点)で,対照群の点数の平均値60.68点(標準偏差18.24点)より低かった。各年度の点数は,正規分布しない連続変数だったため平均値ではなく中央値とノンパラメトリック検定を用いて比較した。試験群のOSCE点数は,中央値57点(四分位範囲50-70点)だった。試験群の結果は,対照群結果の中央値67点(四分位範囲50-67点)と比較して低かったが,統計学的有意差は認められなかった(Wilcoxon rank sum test,P = 0.5430,Figure 1)。

Figure 1

臨床実習実技試験(OSCE点数)結果の比較

試験群の実習試験結果は,中央値57点(四分位範囲50-70点)だった。試験群の結果は,対照群の試験結果である中央値67点(四分位範囲50-67点)と比較して低かったが,統計学的有意差は認められなかった。

3. OSCE点数に対するWeb自宅学修実施時期の影響

試験群のWeb自宅学修は,貸与器材の関係で2グループに分けて実施した。そのため,Web自宅学修の実施時期によるOSCE点数への影響を調べた(Figure 2)。1番目に受けたグループのOSCE点数は2番目に受けたグループのOSCE点数より高かったが統計学的有意差は認められなかった(Wilcoxon rank sum test,P = 0.2718)。

Figure 2

OSCE点数に対するWeb自宅学修実施時期の影響

1番目に自宅学修を受けたグループは,中央値63点(四分位範囲50-70点)だった。2番目に自宅学修を受けたグループは中央値57点(四分位範囲50-70点)で,1番目に受けたグループと比較して点数が低かったが,統計学的有意差は認められなかった。

4. OSCE点数に対するシミュレーション実習実施時期の影響

シミュレーション実習は,試験群,対照群いずれも実習環境の関係で3グループに分けて実施した。シミュレーション実習の時期によるOSCE点数への影響を調べた(Figure 3)。試験群,対照群いずれもOSCE点数はシミュレーション実習を受けた時期による相違がみられたが,統計学的有意差は認められなかった(Steel-Dwass test:試験群:1回目―2回目;P = 0.2074,2回目―3回目;P = 0.4845,1回目―3回目;P = 0.6107,対照群:1回目―2回目;P = 0.9984,2回目―3回目;P = 0.5854,1回目―3回目;P = 0.5052)。

Figure 3

OSCE点数に対するシミュレーション実習履修時期の影響。A:対照群,B:試験群

A:1番目と2番目にシミュレーション実習を受けたグループはそれぞれ中央値67点(四分位範囲50-67点),3番目にシミュレーション実習を受けたグループは中央値50点(四分位範囲50-75点)だった。それぞれの群間を比較した結果,1番目vs. 2番目:P=0.9984, 2番目vs. 3番目:P=0.5854,1番目vs. 3番目:P=0.5052で,統計学的有意差は認められなかった。B:1番目にシミュレーション実習を受けたグループは中央値57点(四分位範囲45-68.5点),2番目にシミュレーション実習を受けたグループは中央値57点(四分位範囲50-77点), 3番目にシミュレーション実習を受けたグループは中央値63点(四分位範囲50-70点)だった。それぞれの群間を比較した結果,1番目vs. 2番目:P=0.2074,2番目vs. 3番目:P=0.4845,1番目vs. 3番目:P=0.6107で,統計学的有意差は認められなかった。

5. Web自宅学修評価とOSCE点数の比較

試験群は,シミュレーション実習の前にWeb自宅学修で模擬歯石除去の動画視聴と練習を実施し,模擬歯石を除去した歯石スティックを成果物として提出させて評価した。そして,対照群と同様にシミュレーション実習終了後に実習実技試験を実施し,歯石除去に対する態度および技能を評価した。模擬歯石除去技能に対するWeb自宅学修後のシミュレーション実習効果を調べるため,Web自宅学修評価とOSCE点数との関係を調べた(Figure 4)。Web自宅学修評価,OSCE点数は,いずれも正規分布しなかったため中央値とノンパラメトリック検定で比較した。Web自宅学修評価の中央値は39点(四分位範囲:9-63点),OSCE点数の中央値は57点(四分位範囲:50-70点)でシミュレーション実習後有意に上昇した(P < .0001)。ただし,Web自宅学修評価とOSCE点数は評価者が異なる結果を比較するため,ICCを用いて評価者間,評価者内の評価の整合性を確認した。試験群の第5学年学生実習試験に用いた歯石除去実習用スティックを無作為に8名分抽出し,教員AとBそれぞれが日を改めて3回評価した。その結果,教員Aの評価者内のICCは0.9451,教員Bの評価者内のICCは0.9048,評価者間のICCは0.9222だった。

Figure 4

Web自宅学修評価とOSCE点数の比較

シミュレーション実習前に実施したWeb自宅学修評価とシミュレーション実習後に実施したOSCE点数を比較することでシミュレーション実習の影響を検討した。Web自宅学修評価の中央値は39点(四分位範囲:9-63点),OSCE点数の中央値は57点(四分位範囲:50-70点)でシミュレーション実習後有意に上昇した(P<.0001)。

6. Web自宅学修評価に対するWeb自宅学修およびシミュレーション実習履修時期による影響

Web自宅学修評価がWeb自宅学修およびシミュレーション実習の履修時期による相違がないか調べた(Figure 5)。Web自宅学修の履修時期によるWeb自宅学修評価の相違は,正規分布しなかったためノンパラメトリック検定を実施したが統計学的な有意差は認められなかった(P = 0.5766)。シミュレーション実習の履修時期によるWeb自宅学修評価の相違は,正規分布したためANOVAを実施したが統計学的な有意差は認められなかった(P = 0.9730)。

Figure 5

Web自宅学修評価に対するWeb自宅学修およびシミュレーション実習履修時期による影響。A:Web自宅学修履修時期,B:シミュレーション実習履修時期

A:1番目に自宅学修を受けたグループは,中央値12点(四分位範囲4.5-19.5点)だった。2番目に自宅学修を受けたグループは中央値11点(四分位範囲1.5-18点)で,1番目に受けたグループと比較して点数が低かったが,統計学的有意差は認められなかった。B:1番目,2番目と3番目にシミュレーション実習を受けたグループは,それぞれ平均値11.04点(標準偏差1.86点),11.30点(標準偏差1.70点),10.74点(標準偏差1.67点)だった。3群を比較した結果,統計学的有意差は認められなかった(P=0.9730)。

考察

COVID-19対策として2020年度本学保存系臨床実習(試験群)において登院学生数の調整と実習内容を補足する目的で27回実施したWeb自宅学修のうち,歯周病学講座が7回担当した。Web自宅学修の内容は各講座の判断に委ねられたため,診療参加型臨床実習後臨床能力試験(Post Clinical Clerkship Performance eXamination:PCC-PX)の一斉技能試験(Clinical Skill eXamination:CSX),臨床実地試験(Clinical Practice eXamination:CPX),歯科医師国家試験ブループリントを考慮して下記の内容を実施した(1.模擬歯石除去の動画視聴と練習を実施,模擬歯石を除去した歯石スティックを成果物として提出させて評価 2.鎌型スケーラーによる歯肉縁上歯石除去およびPMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning)の動画視聴とシミュレーション実習予備学習レポートの作成 3.ナイトガード作製・調整の動画視聴とシミュレーション実習予備学習レポートの作成 4.ブタ下顎骨を使用したGTR法の動画視聴とシミュレーション実習予備学習レポートの作成 5.スケーリング・ルートプレーニングの臨床動画視聴 6.日本歯周病学会基礎実習動画「咬合調整」「歯肉切除術」の視聴と関連事項の問題回答 7.歯周外科(エムドゲインゲルおよびリグロスを用いた歯周組織再生療法,歯肉弁根尖側移動術)の動画視聴)。

本研究は,COVID-19感染拡大に伴う臨床実習の時間減少を補足するために実施したWeb自宅学修の歯石除去等の教育効果を明らかにすることを目的とし,試験群と対照群のOSCE点数を比較評価した。本研究の結果,試験群のOSCE点数はCOVID-19感染拡大前の従来カリキュラムだった対照群と比較して中央値で約10点低い結果だった。統計学的な有意差は認められなかったが,実習時間の短縮による影響は少なからず生じている結果が示唆された(Figure 1)。

試験群は,臨床実習,シミュレーション実習の予備学習のためにWeb自宅学修として自宅での動画視聴および模擬歯石除去の課題を実施した。模型実習の予備学習として自宅での動画視聴の有効性を示す報告がある8,9)。一方,予備学習としてWeb活用の有効性が高くない研究報告10)があるが,これはスマートフォンやタブレット,SNSの普及利用率が高くなる11)以前に調査された結果であった。今回我々は,Web自宅学修用に新たに模擬歯石除去に関する動画を作成した。口腔内でのスケーリング・ルートプレーニングや歯肉縁上スケーリングの実施動画がYouTubeで公開されている。我々が本学臨床実習生と臨床実習実技試験対策について話した際,数年前から公開されているYouTube動画を自発的に視聴してイメージトレーニングすると答える本学臨床実習生が複数名いるようだ(データなし)。スマートフォンやタブレットの普及に伴い11)動画の視聴が日常的になっている臨床実習生には,教科書の写真などを見るより動画を視聴するほうが学習しやすい可能性がある12-17)。さらに今回我々は,シミュレーション実習で縁上スケーリング(歯石除去用スティックの模擬歯石除去)およびスケーリング・ルートプレーニング(人工歯歯根面に塗布したマジックインク除去)の実施,自宅学修評価(歯石除去用スティックの模擬歯石除去)のフィードバックを行った。シミュレーション実習とフィードバック終了後に実施されたOSCE点数は,自宅学修評価よりも上昇すると考え,自宅学修評価とOSCE点数を比較したところ,解析した86名のうちOSCE点数の方が自宅学修評価よりも上がった者が61名,変化のなかった者が2名,下がった者が23名だった。統計解析の結果,シミュレーション実習とフィードバックを行った場合のOSCE点数は自宅学修評価よりも有意に上昇し(Figure 4P < .0001),シミュレーション実習とフィードバックの教育改善効果が示唆された。Web自宅学修評価とOSCE点数は評価者が異なる結果を比較するため,ICCを用いて評価者間,評価者内の評価の整合性を確認した。その結果,教員Aの評価者内のICCは0.9451,教員Bの評価者内のICCは0.9048,評価者間のICCは0.9222だった。ICCは0~1の範囲をとり,一般的に0.7以上の時に高い信頼性があると判定される。教員AとBの評価は同程度かつ信頼性の高い評価であったため,評価者が異なる点はWeb自宅学修評価とOSCE点数の比較に影響はないと考えた。今回の評価を通じ,適切なペングリップでスケーラーを把持できず,ストロークの際に親指で適切な側方圧がかけられない臨床実習生がいた。スケーラーを適切に把持できない臨床実習生の多くは,把持できていない自覚がなく,スケーリングやルートプレーニングを上手に行えなかった。臨床実習生はシミュレーション実習やフィードバックの際に教員から直接指摘,指導を受けることで上手くできない原因を知ることができ,OSCE点数上昇につながったと考える。

当講座の臨床実習は,OSCE形式の実技試験を評価に用いている。歯石除去の手技を評価する場合,1)患者さんの歯肉縁上歯石 2)即時重合レジンによる模擬歯石 3)人工歯に装備された模擬歯石 4)歯石除去用スティックの模擬歯石を除去する4種類の方法がある。1)と2)は全臨床実習生を同じ条件にすることができず,試験器材としての使用は難しい。3)は製品として製作販売されているもので,全臨床実習生同じ条件の資材である。しかしながら,鎌型スケーラーによる歯石除去は歯肉を損傷させる恐れのある手技だが,模型の歯肉交換ができない装備でかつ模型が高価なため,試験のために臨床実習生1名につき1個の模型を準備することは経済的に難しい。4)は実際の歯石の形状とは全く異なるものであるが,正しくレストが置けた状態で側方圧を鎌型スケーラー刃部に負荷できた時に模擬歯石が取れる性状である。そのため,鎌型スケーラーの扱い方が適切かどうかの評価には適した資材であると考え,また価格も安価である。これらの理由より当科臨床実習の実技評価には4)を採用している。一方で臨床実習の理解度,到達度を評価する目的でMCQを回答させる際にWebを活用する報告がある18-22)。技能には技術だけでなく知識も必要であり,e-learningでMCQによる理解度を評価している。しかしながら,臨床技能の習得が国家試験前に求められており,歯科では2020年度からPCC-PXのCSXで,高頻度一般歯科診療治療から「歯石除去」「う蝕除去」「根管形成」「支台歯形成」の4課題を再現した共通模型を用いて受験生に対して一斉に実施し,技能の習得を評価することになった22)。そのため,臨床実習生に対する鎌型スケーラーによる「歯石除去」の技能習得と評価は,歯周病学における臨床実習で必須の最重要項目と位置づけ,Web自宅学修の一項目に選定した。近年,臨床実習や卒後臨床研修において電子ポートフォリオを用いたルーブリックによる形成的評価が多く採用されるようになっている24-26)。その際,実習時期や診療科の違いを問わず全科共通の自己評価項目が使用される。しかしながら,技能を習得する上で必要な実技の要所は診療行為ごとに異なり,全科共通の評価項目を用いることは難しい。そのため,診療行為ごとに評価対象となる点を細かく設定して客観的評価をし,できていない点を学生にフィードバックすることは有効であると考える同様の報告がある27-30)

従来の臨床実習生は,各自の実習中に来院した症例しか経験できなかった。しかしながら,Web自宅学修では,歯周治療の典型例として実際に行っているスケーリング・ルートプレーニングや歯周外科治療を撮影した同じ動画を臨床実習生全員が視聴することで,同じ症例を全員で共有できるようになった。同じ症例を全臨床実習生が共有し学習できる点は,Web自宅学修最大の利点と考えられる3,6,15)

本学歯周病学講座では,COVID-19感染拡大前から鎌型スケーラーによる模擬歯石除去を課題とした臨床実習実技試験をOSCE形式で実施し,臨床実習生の技能と態度を評価している。COVID-19対策として実施したWeb自宅学修の効果を評価する方法として,本研究の主評価項目にWeb自宅学修実施の前後で実施していたOSCE点数を用いた。Web自宅学修では,Googleフォームを用いたMCQで知識の理解度も評価している。しかしながら,模擬歯石除去以外の学習項目に関して,対照群である2019年度以前に比較対照できる臨床実習実技試験やMCQなどによる評価を実施していなかったため,その教育効果に関する解析や評価はできなかった。

現在AIの技術を用いた歯科治療シミュレータの開発が進んでいる31)。これまで主流だった1人の教員が直接複数人の臨床実習生を指導する形態から,各臨床実習生がWebで臨床実技を学び,教員に代わりロボットやコンピューターから指導を受ける日が将来訪れるかもしれない。

結論

Web自宅学修は,従来の臨床実習ではできなかった全臨床実習生が同じ症例を学習することが実現できるようになった。今回,試験群の実習試験点数は対照群と比べて中央値で約10点低かったものの有意差は認められなかったことから,Web自宅学修には臨床実習を補足する教育効果をある程度持つ可能性が考えられた。

謝辞

本研究データの統計解析にあたり,昭和大学統括研究推進センター井上永介先生に多大なるご指導,ご助言を賜りました。厚く御礼申し上げます。

我々は,本研究結果の一部を第64回秋季日本歯周病学会学術大会にて発表した。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

References
 
© 2022 特定非営利活動法人 日本歯周病学会
feedback
Top