日本歯周病学会会誌
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原著
COVID-19パンデミック下における歯学部学生に対する歯周病学教育の実際
田口 洋一郎梅田 誠有田 博一音琴 淳一柴 秀樹中村 利明西田 哲也吉田 直樹小方 頼昌
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2023 年 65 巻 1 号 p. 17-25

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要旨

2020年初頭から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の増加に伴い,大学教育は従来の対面講義からリモート会議システムを用いたオンライン講義への変更を余儀なくされた。共用試験を含め,歯周病学教育においても,講義による知識教育と臨床実習の両面において様々な工夫が行われている。今回COVID-19による歯周病学教育の実態を調査すると共に,大学間の情報共有と今後の歯周病学教育の水準を保つための基礎資料を得ることを目的として日本歯周病学会教育委員会ではCOVID-19に対する各歯科大学・大学歯学部の対応と歯周病学教育への影響に関する調査を実施した。2021年6月にアンケートを依頼し日本歯周病学会1項理事29人より回答を得た(回答率100%)。3,4年次の歯周病学の知識教育では対面講義に代わりWeb講義が行われたが,効果の希薄化が考えられLive講義やハイブリッド講義へ移行する形になり,実習は多くの大学で代替教育を余儀なくされた。臨床実習教育でも診療参加型実習が制約され代替実習となり本会監修のコンテンツが使用されたが,実際の臨床動画の視聴といったコンテンツの改良追加が求められた。また患者と接する試験や密となる試験は予定を変更する形で全大学において実施された。今後,「withコロナ」時代においてオンライン教育も取り入れながらいかに教育効果の高い歯周病学教育ができるかが求められる。

Abstract

With the increase in incidence of the new coronavirus infection (COVID-19), university education was forced to change from conventional face-to-face lectures to online lectures using a remote conference system. In periodontal education, various ideas have changed, both about both knowledge education and clinical training. The Education Committee of the Japanese Society of Periodontology (JSP) conducted a survey on the response of each dental university/university dentistry department to COVID-19 and its impact on periodontal education, and received a 100% response rate. In regard to knowledge education in the field of periodontology, web lectures were given instead of face-to-face lectures, but it that was soon changed to live lectures and hybrid lectures because the effect of the education provision was clearly diluted, and alternative methods were needed for model practical training at many universities. Even in clinical training education, clinical practice was restricted and alternative training methods were needed. The JSP supervised the contents, but improvements and additions of the content were requested. Effective periodontal education required incorporation of online education during the COVID-19 pandemic.

緒言

2019年秋から年末にかけて中華人民共和国の武漢においてはじめての患者が確認されて以来,SARS-CoV-2感染による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者は全世界で爆発的に増加し,社会は対応に追われた。日本においても2020年1月に陽性患者が確認された後,感染者数は増加し,2月28日からは小・中・高等学校が一斉休校になるなど,教育現場においても今まで経験したことのない事態が招来した。大学においても休校の措置は取られ,4月16日からの全国における緊急事態宣言の発出は,入学や新学期が重なる大学にとって,学生の登校禁止や授業開始の延期など予期しない状態を招いた。その後,慣れない中でのオンライン教育を行うことで大学教育はようやく再開したが,教育現場は初めての経験で手探りの状態で混乱を極めた。

全国の歯科大学・大学歯学部では学生の理解を深めるべくWeb講義等いろいろな形での遠隔授業を取り入れることで今までなかった工夫を行うこととなった1)。また臨床実習においては大学附属病院の歯科部門の休院など,患者数の激減や患者や医療スタッフなどと接することから感染防御の観点で様々な制限が強いられ,従来からの教育形態を短期間で変貌させなければならないという事態に陥った。そうした教育形態の変貌の中で,COVID-19によって生じた歯周病学教育への影響を把握し,各大学間で情報を共有し,歯周病学の教育現場の現状を調査し,今後の日本における歯周病学教育の水準を保つための基礎資料を得ることを目的として,日本歯周病学会教育委員会がCOVID-19に対する各歯科大学・大学歯学部の対応と歯周病学教育への影響に関する調査を実施した。本稿では,この全国アンケート調査の結果について報告することとした。

方法

調査は2021年6月10日から7月末日の期間で実施した。対象として歯周病学教育を担当している日本歯周病学会1項理事29人に,教育委員会が作成した「コロナ禍に関する教育実態アンケート」を日本歯周病学会事務局を通じて送付しメールにて回答頂く形で実施した。2020年のコロナ禍開始の緊急事態宣言時(2020年4月8日~5月末日)と2021年度に入ってからの状況を比較するアンケート内容とし,「1.臨床実習前の3,4年次の歯周病学講義と模型実習」と「2.臨床実習と共用試験」の2つに分け各々12,11項目の質問を行なった。質問は表1に示すように主に選択肢方式で,2020年度と2021年度を比較検討し,各大学の特色ある取り組みについては記述式で行なった。臨床実習前の教育についてのアンケート用紙を表1A,臨床実習や共用試験に関するアンケート用紙を表1Bに示す。

表1

A.コロナ禍における3,4年次の講義,実習に関する教育実態アンケート調査用紙

B.コロナ禍における臨床実習教育に関する教育実態アンケート調査用紙

結果

29の歯科大学・大学歯学部から回答を得ることができ,回答率は100%であった。

1. 臨床実習前の3,4年次の歯周病学講義と模型実習について

3,4年次の歯周病学講義の形態については,図1に示すように2020年度で9割がWeb講義を導入した。ほとんどの大学でWeb単独講義であったが,2021年度になり対面講義との併用が半数を超え大幅に増加した。図2に示すようにWeb講義は様々なアプリを用いて実施されたが,汎用性の高いZoomが2020年度から多く使用され,2021年度ではさらに増加した。Web講義の形態について動画や音声付きのPowerpointファイルを学生が聴講するOn Demand講義による片方向と教員と学生が映像内で話しながら行うLive講義による双方向の2種類あり,教育効果が様々である。前者では,動画を一時停止することで整理しながら講義を進めることができる点,後者では,その場で質問をすることができる点といった利点が挙げられる。図3に示すようにWeb講義は2020年度片方向と双方向が拮抗していたが,2021年度は双方向が若干増加した。講義について学生の理解を確認する方法として図4に示すようにレポートや小テストが用いられたが,学生の理解不足が明らかになり2021年度になってからは小テストが増加した。Web講義による希薄化を補う特色ある具体的な取り組みとして,双方向性のWeb講義と対面講義を組み合わせたり,コロナ禍前に配布していたような講義資料をPDFでペーパーレス化しアップロードしたり,Webシステムを用いた個別対応を行なった。カリキュラム終了後の評価については,新型コロナウイルス感染症の感染状況が落ち着いた状況であったので,Web試験などの対応を行なった大学はなかった。

3,4年次の歯周病学教育にとって,講義内容の理解をさらに深めるうえで重要なのは模型や豚顎を用いた実習であると考えられる。実習については,図5Aに示すように2020年度の実習は19大学が内容を一部変更して実施し,図5Bに示すように半数が感染対策を考慮した代替教育を実施した。実習の代替教育の具体的な変更内容として2020年前期は全てWeb動画,後期は2部制の対面実習を行なったり,ブラッシング指導などの学生の口腔内を利用しての実習は模型を用いての実習に変更したり豚顎実習を中止したりすることで,密を避け学生や教員同士の感染防御を考慮した実習となった。

図1

知識教育における歯周病学講義の形態について

歯周病学の講義形態については,2020年度で9割がWeb単独講義であったが2021年度では対面講義との併用が大きく増加した。(回答数 29大学)

図2

Web講義に使用するアプリの種類について

使用アプリとしてZoomが最も多く使用され,2021年度でも増加した。(回答数 2020年度27大学 2021年度26大学)

図3

歯周病学のWeb講義形態について

Web講義の形態についてDemand講義(片方向)とLive講義(双方向)があり2021年度になるにつれLive講義が増加した。(回答数 2020年度27大学 2021年度25大学)

図4

オンラインによる講義について学生の理解を確認する方法

オンラインによる講義によって学生の理解が低下したため2021年度になってからは小テストが増加した。(回答数 2020年度29大学 2021年度28大学)

図5

2020年度の基礎実習(模型や豚顎)の詳細

A;実習の実施の有無について。 B;内容を一部変更した大学の中での代替教育の有無について(回答数 A:29大学 B:19大学)

2. 臨床実習と共用試験について

臨床実習について,図6に示すように実習形態に関して2020年度は接触機会を減らすため見学のみか未実施が大部分であったが,2021年度はほとんどの施設において感染対策を徹底した上で自験が中心の実習に戻った。図7A,Bに示すように2020年度の臨床実習の代替教育は約7割の大学で実施され,本会監修の模型や動画教材の両方を使用して行なわれた。コロナ禍の臨床実習教育で最も必要なコンテンツとして20大学が動画であると回答し,コンテンツの改良追加に関して図7Cに示すように動画が欲しいという希望が約7割と多かった。

歯学教育では,到達しておくべき知識・技能・態度のレベルについて歯学教育モデル・コア・カリキュラム1)が提示され,臨床実習の前後で公益財団法人 医療系大学間共用試験実施評価機構(以下,共用試験機構と略す)が提示,管理実施している共用試験が行われ,大学間共通の評価を行なっている2)。図8に示すように2020年度の客観的臨床能力試験(Objective Structured Clinical Examination;以下OSCEと略す)は感染対策を施し多くの大学で予定通り実施された。また一斉技能試験Post CC Clinical Skill Examination(以下,CSXと略す)も全大学で実施されたが,新型コロナ感染症の第1波と同時期に実施されるOSCEと同様に患者と接触する診療参加型臨床実習後客観的臨床能力試験(Post-Clinical Clerkship Performance Examination;以下,CPXと略す)については,約3分の1の大学で実施時期を変更して実施された。患者と接触するCPXに関しては,感染状況から鑑みて様々な感染防御を施して行うこととなった。とくに歯周病学が担当する際,超音波スケーラーを使用することが多く,通常のスタンダードプリコーションに加え口腔外バキュームの使用を徹底するなど,学生患者両方に対する感染防御が必要となった。しかし共用試験機構が提供する模型を用いて行うPost CC CSXについてはほとんどの大学で例年の予定通り実施し,予定を変更して実施したのは2大学であった。

図6

臨床実習の実施形態

臨床実習は2020年度は見学のみか未実施が大部分であったが,2021年度は自験が中心の実習に戻った。(回答数 2020年度29大学 2021年度29大学)

図7

2020年度の臨床実習の詳細

A;代替実習の実施について。知識教育中の模型実習による教育について多くの大学が内容を一部変更して行なわれた。B;日本歯周病学会監修の模型や動画教材の使用についてその中の半数以上が代替教育を実施した。C;2020年度をふまえてコロナ禍の臨床実習教育で最も必要なコンテンツについて動画を最も望まれている。(回答数 29大学)

図8

2020年度の臨床実習前後の客観的臨床能力試験について

全大学で実施され,多くの大学で例年の予定通り実施された。Aは2020年度OSCEの実施状況,BはPost CC CPX(技能教育)の実施状況,CはPost CC CSX(患者への態度教育)の実施状況について示している。(回答数 29大学)

考察

今回,全国の歯科大学・大学歯学部の歯周病学教育を担当する講座・教室に講義,実習,臨床実習および共用試験のコロナ禍での対応・対策について日本歯周病学会教育委員会が主導してアンケート調査を行った。学会事務局のご協力もあり100%の回答率が得られ,全国の歯周病学教育の実状をほぼくまなく調査できたものと考えられる。

講義に関しては,コロナ禍開始当初の2020年度は新型コロナウイルスの生態の詳細が不明でワクチンがまだ未接種であり感染対策が手探り状態であったことから,基本的には大学には登校しない遠隔教育が取り入れられ,カリキュラムを消化した。未曾有の事態で数か月登校しないで講義を行うことは今まで各大学においても経験のないことであった。各大学においてリモート会議システムやWeb講義に対する準備態勢が整っていなかったことから1,2ヶ月の準備期間が必要であったが,2020年度当初よりZoomを使用される大学が多かったが,2021年度は半数の大学が使用されるようになった。これはパソコンやスマートフォン,タブレットなどどんな環境でもそのまま使え,ハードウェアの機種もパソコンやスマートフォンのOSも選ばないということが大きいと思われる。しかし成績評価などによるコロナ禍前との比較は困難で遠隔教育の質の評価については不明で,実際の効果については今後客観的な評価方法による検証が必要と示唆される3)。当初は学生の理解を得る手段としてレポートの作成が多かった。しかし時間がたつにつれ理解不足が示唆され,小テストでの確認が増え2021年に入り新型コロナウイルスに対するワクチン接種が行われ対面講義とWeb講義との併用によるハイブリッド講義も行われるようになった。2020年10~12月に実施された文部科学省のアンケート調査では全国の大学の約半数以上の講義が対面で実施されていると報告されている4)。文部科学省の調査は医療系大学以外の大学も含めたアンケート調査であるが,今回のアンケート調査では医療系大学で感染の可能性をできるだけ下げないといけない環境の中でWeb講義のみで行なっている割合が若干高くなっている。歯周病学を担当する講座の教員は附属病院での診療も兼任していることも考えられ,Web講義のみで行なっている割合が高くなったと示唆される。今後は各大学において感染状況に合わせて対面講義の完全復活へ舵をきることになると示唆される。また講義と共に行われる模型や豚顎を用いた基礎実習は講義における知識を定着させ共用試験OSCEに対応するためには重要なものである。それゆえ2020年度においても29大学全てで基礎実習が実施されたが,内容を一部変更し代替教育が実施された。アンケートでは代替教育の例として,前期は全てWeb動画を視聴し後期は2部制の対面実習が採用され,ブラッシング指導を模型上での実習に変更し豚顎実習は中止するケースが報告された。若年者では無症状感染者が多いことから,これらは密を避け実習室におけるクラスター発生に対する感染予防対策の一環であると考えられる。今後は各大学において徹底した感染予防対策を行いつつ,感染状況に合わせて代替教育が実施されることが示唆される。

附属病院での臨床実習においては,2020年度と2021年度ではほとんどの大学で対応に変化がみられた。臨床実習の形態に関して2020年度は接触機会を減らすため見学のみか未実施が大部分であったが,2021年度はほとんどの大学で感染対策を徹底した上での自験が中心の実習に戻った。実習時期の関係もあるが,2021年3月から歯科医療従事者に対するワクチン接種も始められ臨床実習の学生に対するワクチン接種も優先的に行なわれるようになった。文部科学省は従来より診療参加型臨床実習を推奨し,歯学教育・モデル・カリキュラム平成28年度改訂版において「指導者のもと実践する(自験を求めるもの)」や「指導者のもとでの実践が望まれる(自験不可の場合はシュミレーション等で補完する)」項目が分類されている4)。とくに歯周病学ではほとんどの歯周基本治療やメインテナンスといった観血的侵襲をあまり伴わない項目が自験対象項目として指定され,診療参加型臨床実習の実施においては非常に比重が大きい教科となっている。歯周病学については自験を中心とする従来からの臨床実習形態に戻るのが早かったと示唆されるが,2020年度は臨床実習自体の開始が遅く患者の来院が減少したので代替実習が必要であった。図7に示すように2020年度の臨床実習の代替教育は約7割の大学で実施され,本会監修の模型や動画教材の両方を使用して行なわれた。アンケートではコロナ禍の臨床実習教育で最も必要なコンテンツとして20大学が動画であると回答し,コンテンツの改良追加に関して実際の臨床の動画が欲しいという希望が多かった。この結果は臨床実習での接触機会の減少が原因であると示唆される。倫理上の問題もあるが,今後教育委員会を中心としてコンテンツの改良追加を進めたいと考えている。

附属病院での臨床実習を実施するうえで共用試験は避けては通れない部分である。とくに臨床実習前に行われるOSCEは歯科医師でなければ基本的に歯科医療をしてはならないという歯科医師法第17条に対する違法性の阻却ということでほぼ必須化されており2024年の公的化が目前に迫っている1)。その観点から29大学全てにおいて実施され,大学所在地や臨床実習開始時期に合わせて例年の予定を変更して実施されたと示唆される。臨床実習終了後のPost-CC PXに関しても,約3分の1の大学において実際の患者と接してのCPXは感染対策の観点から予定を変更して実施したものと考えられる。

今回のアンケート調査では,2020年度から2021年度にかけて感染状況に応じた様々な対応が示され,本会監修の教材コンテンツの更なる改善のヒントを得ることができた。文部科学省からは対面講義への回帰が要望されている5)。Web講義や今までのコンテンツを使用しての代替実習は準備に時間がかかり学生の理解を希薄にするという問題点も考えられる。大学でのクラスター発生に対する危倶が今もなお残っていることから,感染対策を徹底し対面講義と遠隔デバイスを活用したハイブリッド講義形態をこれからも継続する必要があると考えられる。また歯周病学に限らず医歯学領域において様々な工夫を凝らして双方向性教育の提供によりアクティブラーニングが行われている6)。当分の間は,学生の理解度がより深まるように政府の対応や分析に応じて様々な感染予防策を講じて,「withコロナ」時代の教育効果の高い歯周病学教育が求められる。将来それらのアクティブラーニングを通して学びの質を維持することはコロナ禍だけでなくポストコロナに向けて日本の歯学教育において非常に有用になると期待される。

謝辞

今回期間の短い間にも関わらず,ご多忙のなか真摯に丁寧にアンケートにお答えいただきました日本歯周病学会1項理事29人の先生方や実際担当されました先生方に心より感謝申し上げます。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

References
 
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