日本歯周病学会会誌
Online ISSN : 1880-408X
Print ISSN : 0385-0110
ISSN-L : 0385-0110
歯肉炎症発症過程におけるヘパリチナーゼの役割
村上 純一
著者情報
ジャーナル フリー

1989 年 31 巻 2 号 p. 521-534

詳細
抄録

本研究の目的は, 歯肉組織におけるヘパリチナーゼの影響を明らかにする目的で, イヌの歯肉溝にペーパーストリップスを挿入し, そこに実験群としてヘパリチナーゼを, また対照群として酵素を含まない溶液だけのもの, および失活酵素を用い, 毎日1回, 20分間浸み込ませ, 3, 10, 14日後の歯周組織の変化を病理組織学的に検討した。その結果, 酵素塗布3日群と対照群との間に著明な差は認められなかったが, 酵素塗布10日群および14日群において, 上皮間隙の拡大と好中球の浸潤ならびに, 上皮下結合組織における好中球を中心とした炎症性細胞の浸潤が認められた。さらにトレーサーとして3H-Dextranを使用しヘパリチナーゼの上皮透過性に対する影響を調べた結果, 酵素塗布群は対照群に比べ, 約2倍の3H-Dextranの取り込みを示した。またオートラジオグラフィーの所見においても対照群に比較して酵素塗布群で3H-Dextranを示す銀粒子を明らかに多く認めた。螢光抗体法によって組織内での細菌由来ヘパリチナーゼの局在について検討した結果, 螢光陽性部位は, 歯肉上皮において歯肉溝上皮側のみに存在し, 口腔上皮側では認められなかった。さらにその存在部は歯肉溝上皮上層部の細胞間隙の拡大した部位に多く認められた。
以上の結果より, 細菌由来ヘパリチナーゼは, イヌ歯肉溝上皮に存在し, 上皮細胞間マトリックスであるヘパラン硫酸を分解することによって, 上皮本来の防衛能を低下させ, 細菌産生物質の上皮透過性を高め, 歯肉炎症発症に関係することが示唆された。

著者関連情報
© 特定非営利活動法人日本歯周病学会
前の記事 次の記事
feedback
Top