2009 年 17 巻 2 号 p. 168-181
本研究の目的は,中学生812名を対象とし,生徒の学業成績に影響を及ぼす社会的比較の因果プロセスについて検討することであった。本研究の結果より,自分より優れた他者と比較する社会的比較には,学業成績の高さに結びつくプロセスと,逆に学業成績の低下につながるプロセスの両者があることが示された。そして,両者のプロセスには,社会的比較に伴う感情と,その後に行われる行動が媒介していることがわかった。すなわち,社会的比較が行われた際に意欲感情が喚起されると,学習活動に対する努力行動へとつながり,その結果,学業成績につながるというプロセスが支持された。一方,社会的比較の結果,自己評価が脅威にさらされるようなネガティブな感情(卑下感情,憤慨感情)が喚起されると,学習活動に対する回避行動が行われやすく,学業成績の低さに導くというプロセスが確認された。