2015 年 26 巻 3 号 p. 227-235
要約:静脈とリンパの還流は組織恒常性を保つため,ともにドレナージ機能を果たしているが,その相互関係は明らかでない.われわれはラットの大腿静脈周囲に存在する集合リンパ管を,静脈周囲組織を剝離せずに中枢部で全て結紮し,リンパを停滞させる動物モデルを作成した.リンパ管を結紮せずsham operation を行った組織をcontrol群とした.処置7 日後,リンパ管は拡張しリンパ停滞を示した.さらに質量顕微鏡法解析から,Lysophosphatidylcholine,Phosphatidylcholine(diacyl 16:0/20:4),Triglyceride が,静脈壁,静脈周囲組織に蓄積していた.28 日後の静脈壁は,control 群に比べ有意に肥厚した.また周囲組織の脂肪細胞は増加し,その間質はTNFα 陽性であった.さらにリンパ管数は処置後,経時的に減少しcleaved caspase3 が発現していた.リンパ管のドレナージ不全は,リンパ停滞によって組織に異常な脂質分子を蓄積させる.脂質蓄積に伴い脂肪細胞が増加し,TNFα の分泌,静脈壁の肥厚,リンパ管のアポトーシスに関与する可能性が示唆された.