2020 年 31 巻 1 号 p. 29-33
透析アクセス関連盗血症候(DASS)の治療は内シャントの血流を保ちつつ末梢動脈の血流量を増加させる必要があるため容易ではない.今回,穿刺範囲が狭い内シャント症例のDASSに対して,basilic vein transposition(BVT)とproximalization of the arterial inflow(PAI)を行った.症例は49歳,女性.糖尿病性腎症で5年前に血液透析が導入され,2年前より透析時の左手指の痺れを自覚し,その後,安静時痛となった.内シャントは左尺側正中皮静脈の約5 cmの範囲でのみで穿刺が可能であった.左橈骨,尺骨動脈の拍動は触知されず,左前腕血圧/対側上腕血圧は50/130 mmHgであった.DASSに対して径5 mmの人工血管でPAIを行い,BVTを行った.術後,症状は消失し十分な自家静脈穿刺部も確保された.PAIとBVTの同時施行が有用であった症例を経験したので報告する.