2020 年 83 巻 3 号 p. 234-243
わが国の鉄道建設は主に英国人技術者に依ったため,鉄道開業前後から数年間については,書誌記録はあっても具体的な イメージを与える画像史料はほとんどない.レールから車両まですべてを輸入したが,どこでどのようにして組み立てたか,線路工事はどのようにしたのか,駅舎の内部や乗客がたどる経路,列車編成と両数,列車運行,貨物列車は,などなど,ほとんど判っていない. 当時の貴重な画像ニュースである錦絵は,眼前の現実を正確に描くが,未来については想像が強く,絵の信頼性を損なう. 当時の写真は外国人向けの土産品であり,購入者にとって珍しい風物や習俗を写しており,母国のそれのコピーに過ぎない鉄道などは,注目されない.そのような中で,技術者の業績記録のために,あるいは彼らの間の情報共有を目的として残された写真と,一般向けの風景写真に写り込んだ鉄道施設を詳細に読み解き,書誌記録と照合することで,鉄道黎明期を明らかにする.