抄録
ヒトHirschsprung病は先天的に下部消化管の腸蠕動運動が欠如し, 組織学的には腸壁内神経節細胞を欠くことが知られている. しかしながらヒトHirschsprung病解析のための検索材料は比較的限定されるため, この疾患の全体像は十分に把握されていない. 最近, 筏井らによって発見された先天性aganglionosis (ag) ラットはヒトHirschsprung病類似の症状を示し, 同疾患のモデル動物として適当であると考えられている. 今回この先天性agラット腸管のAuerbach神経叢 (A-神経叢) を, 伸展標本を用いた組織化学的および免疫組織学的染色, 通常切片による光学顕微鏡的観察, 走査電顕および透過電顕観察により検索した.
全ての検索した先天性agラットは腸管内容物を充満し異常に拡張した腸管を有していた. 拡張した腸管に続いて狭小腸管を必ず有しており, 狭小部はヒトHirschsprung病に比べ著しく長いのが特徴であった. 対照ラット腸管ではA-神経叢は十二指腸から直腸まで比較的規則正しい格子状像を示したが, 先天性agラットでは, 肉眼的に全く異常が認められない十二指腸でもA-神経叢は不整な配置をとっており, ganglion strandは平均して短小で, 対照ラットのそれと比べ明らかに差異があった. 拡張した部位では, A-神経叢は肛門側に向かうに従い徐々にその密度を減らし狭小部に移行する以前に消失していた. 結腸においては, 対照ラットでは見られない径大小不同の不規則な神経線維束からなる神経線維網が存在したが, 神経節細胞は認められなかった.