抄録
選択的冠状動脈造影を施行した男性74症例について, 高トリグリセリド血症の成因を検討する目的で血清リポ蛋白の種々のパラメーターと, リポ蛋白リパーゼ (LPL) ・肝性リパーゼ (H-TGL), およびLPLに対する超低比重リポ蛋白 (VLDL) の反応性を測定し, それらと冠状動脈硬化度との関連性をみることにより, 冠状動脈硬化における高トリグリセリド血症の臨床的意義について検討した. 血清トリグリセリドの増加は, VLDL粒子の増量以外にVLDLの各成分の組成比の変化による質的変化をもたらすことが考えられた. 高トリグリセリド血症が高度になると, LPL活性の低下およびVLDLの反応性の低下の両面より, 血清トリグリセリドの異化障害を伴うことが確認された. 血清中トリグリセリドと血清中, およびVLDL中のアポC-IIとアポC-IIIとは正の相関を示し, 更にVLDLの反応性とVLDL中アポC-IIIとは負の相関を示した. 高度のトリグリセリド血症におけるVLDLの反応性の低下は, VLDL中アポC-IIIの増加がその一因と考えられる. VLDLの異化機能の検討に際して, 酵素活性の側面と共に基質としてのVLDLの反応性 (組成の変化も含めて) の側面からも検討する必要性が確認された. 冠状動脈硬化度の強い群では, 血清トリグリセリド・血清コレステロールは高値を示す傾向にあったが, 症例差が大きかった. その中, 高トリグセリド血症を伴うものはVLDLの異化の障害を伴っており, その結果冠状動脈硬化が促進されることが考えられた.