抄録
全身性エリテマトーデスのモデルマウスであるNZB×NZW F1 (NZB/W F1) マウスにおいては, 双方の親系マウス由来の複数の遺伝子が自己免疫疾患の発症に関与している. 特にマウスの主要組織適合遺伝子複合体 (MHC) であるH-2がH-2d/H-2zヘテロ接合性であることに加えて, NZWマウス由来のT細胞レセプター (TCR) β鎖遺伝子がIgGクラス抗DNA抗体の産生, ループス腎炎の発症に重要な遺伝的因子であることが示されしいる. このことからMHCの遺伝子産物およびTCRによる抗原の認識が, このマウスの自己抗体産生の亢進に重要であると考えられる. しかしどのようなTCRが, どのような機序でこの現象に係わっているかは現在のところ不明である.
本研究ではTCRβ鎖に加えて, もう一つのTCRの構成要素であるα鎖がこのマウスの自己抗体産生に関与するかどうかを, NZB/W F1×NZB退交配マウスを用いて解析した. その結果, NZWマウス由来のTCRα鎖遺伝子の存在は, 単独では有意な自己抗体産生の増強効果を示さなかったが, MHCのヘテロ接合性とNZWマウス由来のTCRβ鎖遺伝子のとの相互作用において, IgGクラス抗ds DNA抗体産生およびIgGクラス抗ヒストン抗体産生を亢進することが明らかとなった. この事実は, NZB/W F1マウスにおいてはNZWマウス由来のα鎖β鎖よりなるTCRが, F1マウスに特有なH-2d/H-2zヘテロ接合性に由来するclassII分子によって, 提示された抗原を認識することにより自己抗体産生を増強し自己免疫病態を亢進させる可能性を示唆している.