順天堂医学
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原著
自然発症高血圧ラットの大動脈血管内皮細胞の単離培養とその研究
鈴木 伸治上田 清悟
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1992 年 38 巻 3 号 p. 407-417

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抄録

最近の研究報告によれば, 血管内膜依存性弛緩因子EDRFによる血管の弛緩が自然発症高血圧ラット (SHR) において著明に低下しており, 血管内皮細胞 (EC) の機能異常が示唆されている. しかし, SHRのECにおける機能異常を示す直接的な証明はなされていない. 細胞内Ca2+ ([Ca2+]) i) はEC内の情報伝達においてBradykinin (BK) などの血管作動生物質の受容体のsecond messengerとして重要な役割をはたしており, EDRFやprostaglandin-I2 (PG-I2) の産生を制御する. また [Ca2+] iは細胞内のもう一つの重要なsecond messengerであるinositol1, 4, 5triphosphate (IP3) により調節されている. 今回われわれは, ECの機能異常を直接的に解明するためにSHRの胸部大血管からECを取り出し継代培養し, それらの細胞形態およびBK存在下における単一細胞内 [Ca2+] i, IP3, PG-I2を定量し, SHRと正常血圧Wis-tar Kyoto rats (WKY) で比較検討した. [Ca2+] はCa2+感受性蛍光色素であるfura-2/AMを用いARGUS100CA (Hamaphoto) にて定量した. IP3, PG-I2はRIA法にて定量した. ECの細胞膜BK受容体はradio binding assay法にて計測した. その結果, 細胞形態および細胞膜BK受容体はSHR・WKY各々, Bmax=266±18VS254±20fmol/106cells, Kd=0.39±0.02VS0.40±0.30nMと有意差を認めなかったが, 10-7M BK存在下において [Ca2+] iは580±71vs481±85nM (各々SHRとWKY), IP3は8.6±2.8vs5.4±2.4pmol/106cells (各々SHRとWKY) とSHRにおいて両者共に反応性が亢進していた. しかしその一方で, PG-I2の産生は16.2±6.0VS36.6±8.2pg/106cells (各々SHRとWKY) とSHRにおいて著明に低下していた. これらのことはSHRに於てECそのものに機能異常が存在する事実を示した. ECの生化学的機能異常が高血圧に於ける内皮依存性のPG-I2産生やEDRFに基づく血管反応性の異常を惹起するうえで重要な役割を果たしていると考えられる.

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© 1992 順天堂医学会
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