順天堂医学
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原著
悪性卵巣腫瘍に対するCisplatin (CDDP) 腹腔内反復長期投与療法におけるCDDPの体内動態ならびに安全性と臨床成績について
岩佐 剛臼井 直行鈴木 正明高田 道夫
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1992 年 38 巻 3 号 p. 418-427

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抄録

悪性卵巣腫瘍に対するCDDP腹腔内反復長期投与療法の体内動態, 安全性に関する報告は少ない. そこで今回卵巣悪性腫瘍患者に対しCDDPの初回投与と反復投与における体内動態・組織内濃度および, その安全性と臨床効果について検討した. (1) CDDP腹腔内反復投与症例におけるtotal-Ptの血中濃度は投与回数を重ねるごとに投与前値が高くなり, 同程度の差を持って24-72時間後まで推移した. 一方free-Pt血中濃度の投与前値は回数を重ねても検出されなかったが, 投与直後から2時間後までは投与回数を重ねるごとに比較的高値を示す傾向が認められた. また腹水中のfree-Pt濃度推移は, 血中のfree-Pt濃度推移のパターンと類似していたが, さらにいちじるしい傾向が認められた. (2) CDDP初回投与時の卵巣腫瘍組織内total-Pt濃度はiv群で0.19-0.76μg/ml, ip群では1.26-1.84μg/ml, ia群では0.89-4.85μg/mlであった. CDDP腹腔内反復投与後の卵巣腫瘍組織内total-Pt濃度は, CDDP初回投与時の卵巣腫瘍組織内total-Pt濃度に比較して高い傾向を示したが, 必ずしも臨床効果とは一致しなかった. (3) CDDP腹腔内投与を10回以上反復した後でも, BUN・CCr・PSP・NAG・β2-MGなどの腎機能に関するパラメーターが悪化する傾向はなかった. (4) 腹腔内留置チューブよりの菌検出率は40.5% (15/37), 分離菌はほとんどCNSであった. 緑濃菌は検出されなかった. 感染徴候としては2例に白血球の増加が見られたのみであった. (5) 卵巣癌StageIIIにおけるCDDP腹腔内反復投与群の奏効率は8/11 (73.0%) であり, 大きな腫瘍塊でも著効例が認められた. 以上のことよりCDDP腹腔内長期反復投与療法は, 薬理動態からみると抗腫瘍効果のあるfree-Ptが血中・腹水中とも一回投与よりも上昇し, 持続的高値を示す特徴があり, 安全性の面でも支障がなく臨床効果も優れており, 悪性卵巣腫瘍に対する化学療法の投与経路としてきわめて有用であることが明らかにされた.

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© 1992 順天堂医学会
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