長期続く先行狭心症がなく突如として心筋梗塞を発症する例では, 再疎通後の冠状動脈責任部位狭窄が高度でない例が多い. この型の心筋梗塞の発症機序を明らかにするため, 急性心筋梗塞急性期死亡40剖検例を, 突然発症した21例 (A群) と安定労作性狭心症歴をもつ19例 (B群) に分け, 各責任冠状動脈病変を病理学的に比較検討した. 両群間には年齢・性別比・冠危険因子・梗塞責任部位・発症時労作の有無に差はない. A群はB群に比し, 狭窄度は有意に低く (A: 81%;B: 93%, P<0.01), 粥腫破綻頻度 (A: 86%;B: 53%, P<0.05) および内膜内脂質占有率 (A: 79%;B: 58%, P<0.01) は高かった. A群の冠状動脈責任部位は比較的内腔狭窄度の低い偏在性粥腫病変で, 豊富な脂質沈着を認め, 線維性被膜の菲薄化部位での潰瘍性破綻・粥腫内出血および血栓形成を認めた. 細胞間基質は破綻部でいちじるしく減少していた. 労作性狭心症の原因とならぬ軽度ないし中等度の狭窄部位でも粥腫破綻により急激な冠閉塞をきたし得ることは, 梗塞予防対策を進める上で特に考慮する必要がある.