順天堂医学
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原著
透析患者に対する単独冠動脈バイパス術と大動脈弁手術の複合手術の検討
嶋田 晶江山本 平松下 訓稲葉 博隆桑木 賢次森田 照正土肥 静之天野 篤
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2012 年 58 巻 5 号 p. 416-421

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抄録
目的: 透析患者の増加に伴い, 透析症例に対する開心術が増加している. また, 透析導入後の遠隔予後の改善に伴い, 大動脈弁狭窄症と冠動脈に対する複合手術が必要となる症例が増加している. 近年, 透析患者に対する冠動脈バイパス術では心拍動下冠動脈バイパス術の普及や周術期管理の改善により手術リスクが軽減したが, 複合手術における手術ならびに遠隔期成績の検討はなされておらず, 現況に見合った手術適応ならびにリスクの評価が急務となっている. 今回われわれは, 冠動脈バイパス術を施行した慢性透析患者のうち冠動脈バイパス術を単独で施行した症例と, 大動脈弁狭窄合併症例に対して一期的合併手術を行った症例の術後合併症および予後を比較することにより, 複合手術の妥当性を検討した. 対象・方法: 2005年1月から2009年12月までの5年間に当院にて冠動脈バイパス術を施行された慢性透析症例89例を対象とした. 単独冠動脈バイパス術を施行した64例 (冠動脈バイパス術単独施行群) と冠動脈バイパス術に大動脈弁手術を同時施行した18例 (大動脈弁手術同時施行群) に分け, 患者背景, 周術期成績ならびに中期成績を後ろ向きに比較検討した. 結果: 術前の状況を比較すると, 高血圧, 糖尿病, 脳血管疾患は両群間に有意差は認めなかった. 脂質代謝異常の合併頻度は冠動脈バイパス術単独施行群が高率であった. 周術期合併症は脳合併症, 呼吸不全, 心房細動, 創部感染の発生に両群に有意差は認めなかった. 在院死亡は冠動脈バイパス術単独施行群2例, 大動脈弁手術同時施行群1例であった. 累積5年生存率, 累積5年心臓関連死回避率はともに両群間に有意差はなかった. 考察: 透析症例において, 大動脈弁狭窄を合併した虚血性心疾患に対して一期的複合手術は単独バイパス術に比べて在院死亡・周術期合併症や5年累積心臓関連死回避率において有意差はなく, 透析患者における大動脈弁狭窄症の進行の早さや, 再手術のリスクを考慮すると積極的な一期的手術の施行も十分に可能で有用である可能性が示唆された.
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© 2012 順天堂医学会
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