PLANT MORPHOLOGY
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特集Ⅰ 加圧凍結法が切り拓く世界
最新の高圧凍結装置とアプリケーション
伊藤 喜子
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2013 年 25 巻 1 号 p. 35-42

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抄録

一般的な電子顕微鏡用試料の前処理では,化学固定およびそれに続く脱水,置換の過程で細胞の微細構造変化や可溶性成分の流出などのアーティファクトが生じることが知られている.これを解決する手法として,細胞の状態を瞬時に止めることのできる凍結固定法が提唱されている.通常,水は凍る際,結晶化して細胞内で氷晶が形成される.この際,微細構造の破壊が起きる.そこで,電子顕微鏡観察レベルで構造を保持するためには,水を非晶質に凍結する必要がある.凍結手法には大気圧下で試料を急速に冷却する急速凍結法と,2100 bar (210 MPa)の圧力下で凍結する高圧凍結法がある.急速凍結法では非晶質に凍結できる深さが約5~20 μmであるのに対し,高圧凍結法では約200 μmと言われており,植物等のやや大きめな細胞,さらに組織レベルでの解析にも大いに役立つ手法となっている.凍結固定後のワークフローは,凍結状態で固定脱水を行った後,樹脂包埋および薄切して観察する凍結置換法と,凍結状態の試料をそのままクライオミクロトームで薄切して,cryo-TEMで観察するCEMOVISなどがある.また,凍結試料の凍結切削した断面をcryo-SEMで観察する試みもなされている.本総説では,高圧凍結の最新情報とそのアプリケーション例を紹介する.

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© 2013 日本植物形態学会
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