抄録
シダ類の配偶体は大半が地上生で心臓形を示すが,一部の分類群の配偶体は岩上や樹上着生でへら形やリボン形など示す.我々は寒天培地上で胞子発芽後から成長を続ける同一個体の表面観察を定期的に行い,正確な細胞系譜解析に基づく情報から,シダ類の配偶体において,5タイプの発生様式(カニクサ型,アツイタ型,アネミア型,イワヒトデ型,シシラン型)を認識した.これらの発生様式は3つの分裂組織,(1)頂端細胞型分裂組織,(2)周縁分裂組織,(3)始原細胞群型分裂組織,の有無と働く期間の違いに基づくものである.カニクサ型は最も一般的なもので,(1)と(2)が連続して分化し,心臓形配偶体が形成される.アツイタ型とアネミア型はカニクサ型の亜型で,それぞれへら形と左右不相称心臓形の配偶体が形成される.イワヒトデ型とシシラン型は(1)の後に(2)が挿入される事が大きな特徴で,この周縁分裂組織の拡大と分断により配偶体の分枝がおこり不規則に分枝したリボン形配偶体が形成される.イワヒトデ型とシシラン型の違いは,(3)の存在の有無である.以上から心臓形を作るカニクサ型発生様式が祖形となり,周縁分裂組織を獲得する事によってイワヒトデ型とシシラン型を生じ,リボン形配偶体が進化したと考えられる.また本稿では,配偶体発生様式とハビタットとの関連についても議論する.