PLANT MORPHOLOGY
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学会賞受賞者ミニレビュー
微細構造の三次元的な理解による灰色植物の分類体系の実現を目指して
高橋 紀之野崎 久義
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2016 年 28 巻 1 号 p. 49-54

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抄録

灰色植物は一次植物の最も原始的な形態を保持する系統群として全ゲノム解析を含めた研究が実施されているが,分類学的研究は他の2系統である緑色植物や紅色植物に比べ大きく遅れをとってきた.微細藻類の種を形態的に認識するには電子顕微鏡レベルの情報が有用と考えられるが,灰色植物においては,断片的な情報しか得られない従来の電子顕微鏡法だけでは,光学顕微鏡を超えた微細構造上の分類形質の発見は困難であった.そこで我々は特に原形質体表層の外被構造に着目し,次世代の超微細形態観察を含む複数の電子顕微鏡法による観察を実施した.電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)と透過電子顕微鏡(TEM)を併用した詳細な形態観察によって,灰色植物の一種であるCyanophora属においては,細胞表面全体を覆う嶺により縁どられた模様が認められ,この嶺は細胞膜を裏打ちする小葉状の扁平小胞の境界における反り上がりによって形成されていることがわかった.またこの様な微細構造の差異により,Cyanophora bilobaと新種C. sudaeを識別することができた.一方,厚い細胞壁で覆われたGlaucocystis属の細胞外被は,FE-SEMで直接比較するのは困難であり,超高圧電子顕微鏡による三次元(3D)観察を試みた.この結果,Cyanophoraと同様のGlaucocystisの細胞膜と扁平小胞の立体配置が描出され,さらにこの3D微細構造の多様性が明らかになった.これらの結果から,2属に共通する「細胞膜の内側で小葉状の扁平小胞が密に裏打ちする」外被立体微細構造をもつCyanophora様の鞭毛虫こそが灰色植物の共通祖先の姿であり,更には最初の一次植物にまで遡るとも推測された.

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© 2016 日本植物形態学会
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