2017 年 29 巻 1 号 p. 63-71
真核細胞は,基本的には2重膜に包まれた3種の細胞小器官(細胞核,ミトコンドリアと色素体)と単膜に包まれた4 種の細胞小器官(小胞体,ゴルジ体,リソソーム,ペルオキシソーム),そしてその他に膜に包まれていない中心体などの細胞構造体から構成されている.これらは何れも重要な細胞機能を負っている.これまで細胞増殖の研究では細胞核が中心であり,その他の6種の細胞小器官の分裂増殖についてはほとんどとりあげられていなかった.それはアメーバ類から高等動植物まで,これら6種の細胞小器官の数が多く,形も複雑で,ランダムに分裂するなど,詳細な構造解析が難しいことが大きな要因である.単細胞の原始紅藻Cyanidioschyzon merolae(シゾン)はゲノムサイズが小さく,7種の細胞小器官の最少セットを含み,光の明暗でそれぞれを同調的に分裂させることができる.更にゲノム情報が完全に解読されており,プロテオームだけでなくオーミクス解析ができるなど,細胞小器官の分裂の研究に多くの利点がある.その結果,色素体(葉緑体)分裂装置(リング),ミトコンドリア分裂装置(リング)そしてペルオキシソーム分裂装置(リング)を世界に先駆けて発見し,その構造と機能を分子レベルで解くことが出来た.またこれらの発見は真核細胞/細胞小器官の誕生に新たな理解をもたらした.次の課題は,こうした細胞小器官やその分裂装置はどのように誕生したのか,シゾンより更に小さな極小の真核生物は存在するのか,真核生物はどこまで小さくなれるのか等,シゾンより小さな真核生物の探索であった.最近この疑問に答えられる可能性のある常温で淡水に棲息する緑藻Medakamo hakoo(メダカモ)を発見した.本稿は,日本植物学会第80回大会のシンポジウム(オーガナイザー河野重行)でお話したメダカモに至るシゾンの研究史と,メダカモの今後の研究についての講演をまとめたものである.