2017 年 29 巻 1 号 p. 57-61
バクテリアをはじめ,原生生物,藻類,動物の中には環境中の豊富なリンをポリリン酸の形で蓄積する生物が知られている.下水中の汚泥からリンを生物学的に除去するのを促進するために,ポリリン酸を蓄積するバクテリアが利用されている.クロレラを透過型電子顕微鏡で観察すると,電子密度が高い構造体が確認される.DAPIによる観察では,この電子密度の高い構造体は,形状や細胞内分布がポリリン酸を含む小胞と類似していることが示された.しかし,DAPI で検出されるポリリン酸顆粒,高電子密度顆粒とリン蓄積動態との関連性についてはよくわかっていない.本研究では,クロレラの一種Parachlorella kessleriを硫黄欠乏条件で培養し,走査透過型電子顕微鏡(STEM)に搭載されたエネルギー分散型X線(EDX)分析装置を用いて,細胞内のリンの局在を明らかにした.また,モリブデンブルー法によってクロレラに蓄積される総リン酸とポリリン酸量の経時的変化や電顕3D法を用いたオルガネラ体積動態解析により,クロレラ細胞は培養の初期から中期にかけて高電子密度顆粒にポリリン酸を蓄積することを明らかにした.