2018 年 30 巻 1 号 p. 31-36
ミトコンドリアは酸素呼吸により細胞に必要なエネルギーの大半を作りだすオルガネラである.一方,呼吸の副産物としてミトコンドリアからは活性酸素が生じ,細胞成分に障害を与えてしまう.したがって,健全な細胞活動のためには,ミトコンドリアの量と質が適切にコントロールされている必要がある.オートファジーによるミトコンドリアの選択的な分解は,真核細胞が余分あるいは異常なミトコンドリアを取り除く手段の1つと考えられている.マイトファジーとよばれるこの反応は,ミトコンドリアの一部を二重膜で囲まれたオートファゴソーム内に包みこみ,次いでリソソームあるいは液胞と融合することで分解する.マイトファジーの機構や制御の理解に,出芽酵母をモデルとした研究は大きく貢献してきた.出芽酵母のミトコンドリア外膜に存在するAtg32はマイトファジーに特異的なレセプターとしてはたらき,オートファジー因子と直接作用することで,分解するミトコンドリアとオートファゴソーム形成の場とを結びつける.また,マイトファジーの誘導はAtg32の転写や翻訳後修飾を介して厳密に制御されている.さらに,Atg32はマイトファジーに特異的な因子であるため,その欠損株の表現型解析によりマイトファジーの生理的な意義を検証することが可能である.本稿では,Atg32を中心に酵母で明らかにされたマイトファジーの機構や制御,意義について紹介する.