2019 年 31 巻 1 号 p. 3-9
鞭毛を持ち水中を遊泳する藻類の多くは至適な光環境下で生育するための光走性や光驚動等の光運動反応と呼ばれる応答を示す.微細藻類の中では緑藻とクロムアルベオラータ,そしてエクスカベートに属する光独立栄養性のユーグレナ(Euglenophyta)が三次元方向の光走性を示すことが知られている.多くの場合光走性を示す藻類は「eyespot(眼点)」と呼ばれる器官を有する.「眼点」という名称がついているものの実際の光受容体は眼点の近傍の鞭毛や細胞膜に局在する.眼点はカロテノイドを高濃度に集積した顆粒の集合体であり,鞭毛もしくは鞭毛の運動面の近傍に形成される.この狭義の眼点と実際の光受容体によって藻類の光受容器官である「eyespot apparatus(EA)」が構成される.真核藻類の光走性やEAは分類群ごとに独自に獲得されたと考えられ,眼点の形成位置や形態,特性も系統によって大きく異なる.Euglenophytaは眼点や光走性の研究における主要なモデル生物の一つとして古くから解析されてきたが,実はこの藻類の光走性における眼点の役割についての議論は未だ結論が出ていない.本総説では微細藻類の眼点構造やEuglenophytaの光運動反応に関わる細胞構造について概説すると共に,Euglena gracilis の光走性における眼点の機能の解明に向けた筆者らの取り組みを簡単に紹介する.