PLANT MORPHOLOGY
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学会賞受賞者ミニレビュー
葉緑体「壁」を持つストレプト植物の葉緑体分裂機構 — Invisible wallを求めて —
高野 博嘉
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2021 年 33 巻 1 号 p. 77-88

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抄録

光合成を行う葉緑体の起源が細胞内共生した藍藻(シアノバクテリア)であることは,現在では広く認められている.藍藻は細胞壁としてペプチドグリカン(またはムレイン)を持つが,一次共生植物の初期に分岐した灰色植物を除き葉緑体にペプチドグリカン層が見いだされたことはなく,緑色植物の葉緑体はペプチドグリカンを失ったと考えられてきた.しかし我々は,コケ植物蘚類のヒメツリガネゴケに各種のペプチドグリカン合成阻害剤を処理すると葉緑体分裂が停止し,巨大葉緑体が生じることを見いだした.続いてヒメツリガネゴケのゲノム中にペプチドグリカン合成に必要十分と思われるMur(ein)遺伝子セットがあることを明らかにし,それらの単一遺伝子破壊により巨大葉緑体が出現することを示した.更にペプチドグリカン特異的なD-アラニル-D-アラニンを用いた高感度代謝標識法を用い,コケ植物の葉緑体を取り囲むペプチドグリカン層の可視化に成功した.他の植物種の結果も踏まえ,共生した藍藻から葉緑体への進化を細胞壁の視点から考えてみたい.

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© 2021 日本植物形態学会
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