PLANT MORPHOLOGY
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花成とエピジェネティクス
近藤 洋竹能 清俊
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2008 年 19and20 巻 1 号 p. 15-27

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抄録

花成に低温が関与するバーナリゼーションでは,種子や芽生えの時期に受けた低温の効果が個体成熟後に現れる.この低温の記憶のように,ある情報が繰り返される細胞分裂を経ても安定して維持される現象をエピジェネティクスという.エピジェネティックな現象は,鍵となる遺伝子のメチル化や,それをとりまくヒストンの化学修飾によって,安定的なクロマチンの構造変化およびそれに伴う遺伝子発現の変化が誘導されることによって制御される.バーナリゼーションでは,花成経路統合遺伝子であるFLOWERING LOCUS C(FLC)が様々なエピジェネティック制御を受けることが明らかになっている.一方で,光周期が花成を制御する光周的花成においては,誘導的光周期によって誘導された花成は非誘導条件に戻されると容易に栄養生長に戻るため,エピジェネティクスによる記憶を考慮する余地がない.したがって,これまで光周的花成とエピジェネティクスを関連付けて考察した報告はなかった.しかしながら,シソの光周的花成は誘導的光周期を受容したことを記憶するかのように安定して持続する特徴がある.DNA脱メチル化剤を用いた解析の結果,シソや他のいくつかの植物で光周的花成にエピジェネティクスが関与する可能性が見いだされた.本総説では,植物におけるエピジェネティクスの知見を概観するとともに,光周的花成におけるエピジェネティクス制御の可能性について紹介する.

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© 日本植物形態学会
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