この研究は介護保険導入をめぐる政策理念の対立と収斂を解明し,介護保険の政治学的意義を考察する。介護保険の政策形成は,利害関係者による高齢者介護を救貧的な措置制度から生活支援の社会保険に転換するという「政策的学習」と,医療と福祉の再定義,医療保険の財政安定化といった争点における理念対立として理解される。国際的な国家体制や行政構造の相違は時間的な政策の変化を説明できないが,この研究は制度構造自体を「ゲームのルール」として政策形成を条件づけるものと捉え,その制約下における政治体制的な状況変化を視野に入れ,専門的な集団における政策理念の合従連衡に焦点をあてた事例研究を提示する。