2000 年 2000 巻 p. 2000-1-019-
周知のように,一九八〇年代来の規制緩和政策を理論面から支えているのは,戦後世界を長らく支配してきたケインズ経済学とは対照的な市場観を持つ新古典派経済学であり,それをハイエクやフリードマンといったより徹底した反ケインズ主義者が補強しているのが現状である。自己調整的な市場の論理を基礎に自己調整的でない政府の機能を厳しく限定していこうとする彼らの立場を「市場基礎付け主義」と呼ぼう。現在,広範な支持を受けているこの市場基礎付け主義には,しかしながら,理論的不備が認められる。「市場の失敗」に対する楽観と,「セーの法則」という暗黙の前提がそれである。これらの理論的不備のため,それは今後進められるべき規制緩和政策の指針としては不適切である。本報告の目的は,市場基礎付け主義の理論的不備を確認する作業を通じて,規制緩和政策が今後取るべき方向性を探る事にある。