公共政策
Online ISSN : 2758-2345
最新号
選択された号の論文の29件中1~29を表示しています
巻頭論文
特集論文
  • 大矢野 修
    2000 年 2000 巻 p. 2000-1-002-
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/01/17
    ジャーナル フリー

    自治体では,1980年代以降,政策自立を志向する自治体職員による「政策研究」活動が全国的に広がっていく。自治体発行の政策情報誌は,自治体の内部で育ちはじめたこうした職員の政策研究の成果発表の場として位置づけられる。しかし,自治体職員による「政策研究」については,その固有の課題ないし独自性について論及した文献は必ずしも多くない。また,そのことが明かにならない限り,自治体発行の政策情報誌の発行の意義も明確になってこない。

    そこで,本稿では,1.日本の自治体が政策自立を志向しはじめる1960年代以降の時代背景を概観しながら,自治体職員が政策研究に取組みはじめた要因をさぐること。つぎに,2.西尾勝論文「自治型の行政技術」を手がかりに,政治と行政の関係を軸に,自治体の内部改革と自治体職員の「政策研究」がどのような内的論理で結びつくかを考えながら,自治体職員の「政策研究」の固有の現場と独自性について論及することにした。その結果を踏まえて,3.自治体発行の政策情報誌について,先駆的役割をになった4誌を取り上げ,各自治体における内部改革との関連で,政策情報誌がどのような役割を果たしてきたかを検討し,最後に,4.自治体改革における政策情報誌の意義と今後の課題について論じることとした。

  • 桑原 隆太郎
    2000 年 2000 巻 p. 2000-1-003-
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/01/17
    ジャーナル フリー

    地方分権が実行段階に入った今日,各自治体は待ったなしの自己改革に迫られている。自治体改革の第一の主体は職員である。その自治体職員の意識改革や政策能力の開発の有力な方策である職員研修の在り方について,基礎概念の考察を踏まえ,北海道における「地方自治土曜講座」と北海道町村会による道内町村職員の研修機会の拡充方策の取り組みを検証し考察する。

    職務執行のための知識の習得を主眼とした従来型の地方公務員研修の観念を払拭し,「官治型の公務研修から自治型の政策研究へ」と研修概念の意味転換がなされなければならない。それは,まちづくりの公共課題が基盤整備から都市型社会の成熟過程に対応した質的整備へ変わった日本社会の構造変化による要請である。

1999年度研究大会論文
立法過程と国会改革
  • 谷 勝宏
    2000 年 2000 巻 p. 2000-1-004-
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/01/17
    ジャーナル フリー

    本論文は,1980年から1998年の期間に提出された議員立法の現状分析から,議員立法の制度や慣行の問題点を指摘し,具体的な政策提言を行ったものである。90年代以降の議員立法の特徴としては,1)議員連盟や党のプロジェクトチームによって立案された超党派型の議員立法が増加していること,2)野党提出の議員立法では,政府与党に先行する政策先行案や政府与党案の対抗案の提出件数が増加し,政府与党に代替する政策プログラムを明示する手段として議員立法が活用されていること,3)野党提出の先行案の委員会での実質審査が行われたり,対案が修正協議で実質的な修正に取り入れられるなど,野党の政策影響力が増大するようになっていることが指摘できる。しかし,依然として,野党の議員立法が審議される絶対量は少なく,成立した議員立法もその立法過程は不透明である。また,衆議院における法案提出前の機関承認の慣行が,多様な議員立法の提出を阻害したり,法案審議における政府委員による官僚主導などの問題点が存在している。筆者は,こうした問題点に対して,少数党提出の議員立法の審議の実施のための関連法案の一括審議の拡大や立法計画の策定,議員立法の立法過程のディスクロージャー,機関承認を受理要件とする慣行の廃止や,超党派議員立法への参加に対する党の締め付けの緩和,大臣等と議員立法発議者の双方向の質疑・答弁による討論型審議の採用,質問制度の活用による行政監視・情報公開機能の確保などの制度改革の提言を行った。

  • 福元 健太郎
    2000 年 2000 巻 p. 2000-1-005-
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/01/17
    ジャーナル フリー

    本稿では,現行憲法施行後の第1回国会(1947年)から第144回国会(1998年)まで,半世紀余にわたって提出された全7792本の内閣提出法律案(「閣法」)について,データベースを構築した。立法過程の実際状況を捉えるため,継続審議や臨時国会提出法案も扱えるよう日程値・日程間値という新しい指標を作成した。その上で,短期的な変動をならして中長期的な趨勢をとらえるべく,総選挙にはさまれた期間(選挙期)ごとに各指標の時系列変化をみる。

    こうした通時的検討によって,1970前後を境として法案審議期間が長期化する反面で,審議の回数が低下していくことが見て取れる。すなわち,議論をしないで審議を引き延ばすという国対政治は,1955年に成立した自民党政権や同年に改正された国会法に固有な現象ではなく,いわんや国会という制度に必ずつきまとうものでもないのである。それはあくまで歴史的に形成され,1970年前後に与野党間の政治的均衡として確立したものであったことを強調する。さらに連立期に入ると,つるしをはじめとする審議期間のさらなる長期化と審議回数の低迷という形で,国会審議状況が一層悪化していることを明らかにする。

    最後に国会改革の方向として,討議的アリーナとしての国会という在り方について言及する。

  • 成田 憲彦
    2000 年 2000 巻 p. 2000-1-006-
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/01/17
    ジャーナル フリー
政策評価の進展とその法制化
  • 武藤 博己
    2000 年 2000 巻 p. 2000-1-007-
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/01/17
    ジャーナル フリー

    「行政評価」や「政策評価」が重要な課題となっている。とりわけ,市民への直接的サービスを提供する市町村(基礎自治体)において,重要な課題となっている。しかしながら,どのような評価方式が望ましいのかについて,市町村の現場では混乱が生じている。そこで本稿は,市町村レベルでの導入を前提にして,行政活動の評価に関する基本的な論点を整理した後,8つのステップによる評価の実践的な導入について検討した。

    8つのステップとはすなわち,施策体系の整理(第1ステップ),評価対象施策の選択(第2ステップ),評価の目的・目標の確認(第3ステップ),具体的指標の作成(第4ステップ)資料の収集・整理・分析と指標への適用(第5ステップ),施策の総合的な評価の実施(第6ステップ),評価レポートの作成(第7ステップ),そして市民に対する評価レポートの公開方法の検討(第8ステップ)である。

  • 山本 清
    2000 年 2000 巻 p. 2000-1-008-
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/01/17
    ジャーナル フリー

    行政改革会議の最終報告を受けて実施される今回の行政改革の特徴の一つは,政策評価機能の拡充強化である。従来の我が国の行政は計画・予算重視でしかも手続き・準拠性が主たる運営原理であったのに対し,今後は成果重視の結果志向に移行することが意図されている。しかしながら,今回の改革の政策評価は行政内部の評価であり,内部統制と外部監査機関等による外部統制は評価に関しどのような関係にあるべきかという問題の他,どのレベルの行政活動を対象にするのか,いかにアカウンタビリテイ確保と質及び効率性の向上を達成するのかに関しては不透明な点が少なくない。そこで,まず,評価と会計検査のアプローチを比較し,ついで外部監査機関が従来型の監査から評価に重点を移行している背景を整理する。そして,我が国の行政改革にも大きな影響を与えている新公的経営管理(New Public Management; NPM)下においては,評価が行政活動の成果を定量化した業績指標体系を前提にして国民を顧客,サービスの提供者を供給者とする仮想市場のシグナル的機能を担うことを明らかにする。こうしたNPMが適用されると,外部監査機関に求められる機能も自ずと異なり,会計検査の評価のタイプも業績指標のモニタリング的評価と行政庁の評価を補完する評価,つまり,第三者として政策の枠組みの検討と政策の効率性・有効性の改善を図ることに分かれることを示す。

  • 梅田 次郎
    2000 年 2000 巻 p. 2000-1-009-
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/01/17
    ジャーナル フリー

    1995年から取り組んでいる三重県の行政改革は,従来からの改革手法をとらず,事務事業評価システムの導入をその根幹に据えるという前例のないものであった。筆者は,当初からその実務上の責任者として携わってきた。

    本稿では,三重県における事務事業評価システムの導入の経過を内側からたどることによって,まず官僚組織に内在する組織的抵抗とそれを突き破ろうとする職員の自発的な変革力とのせめぎ合いの状況を検証した。さらにシステムの進化とも言うべき発展段階での課題や「挑戦する役所」の悩みを整理し,政策評価を実効あらしめるために必要な基盤は何かについて言及した。

    第一に信念あるリーダーの存在であるが,次に実務上欠かすことのできない推進力は,官僚組織の内部に潜んでいる自発的な変革力であり,これを潰さずにいかに育てるか,本稿で述べている官僚組織の病理現象の改善なくして政策評価の実効は期待できないと考えている。

行政組織改革と地方分権
  • 安念 潤司
    2000 年 2000 巻 p. 2000-1-010-
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/01/17
    ジャーナル フリー

    日本においては,内閣総理大臣が政治的リーダーシップを発揮する機会が少なく,そのために内閣全体の求心力が欠け,有効な政治指導がなし得ないと指摘されることが多い。法律家として関心をもつのは,こうした欠陥がかりにあるとして,それがいかなる意味で法制度,特に憲法の規定に由来しているか,という問題である。

    明治憲法においては,内閣の連帯性と国務各大臣の単独輔弼主義とが,いずれも他を圧倒することなく綯い交ぜになって運営されたため,事実としての閣内の全員一致が達成されない場合には,しばしば閣内不一致を理由とする内閣総辞職が行われた。また,国務大臣が原則として各省大臣としての地位を併有したため,閣内の割拠性が増幅された。内閣総理大臣に各省大臣に対する指揮監督権を認めようとする試みが繰り返されたが,国務大臣の平等性の原則が障害となって,目立った成果は上げられなかった。

    これに対して,日本国憲法においては,閣内の全員一致の原則は,内閣の連帯責任制を根拠として維持されたが,内閣総理大臣には国務大臣の罷免権が与えられたほか,解釈や実例によって,閣内の一致を調達しあるいは擬制する装置が整えられた。また,国務大臣の大部分は依然として各省大臣の地位を併有したが,内閣総理大臣の行政各部に対する指揮監督権が憲法上認められ,しかもこの権限は単独で行使し得ると解釈される余地があるために,内閣総理大臣の閣内統制権は,際だって強化された。

    今日では,議院内閣制の枠組みを維持する限り,内閣総理大臣のリーダーシップは,法制度的には,これ以上強化しようのない段階にまで至った。それでもなお,内閣総理大臣の権限を強化しようとしても,問題の解決にはつながらないであろう。むしろ,内閣総理大臣のリーダーシップの欠如自体が,一種の仮象問題にすぎないのではないだろうか。

日本の非核化と東アジア非核地帯構想具体化の問題
自治体政策法務―政策の条例化
  • 北村 喜宣
    2000 年 2000 巻 p. 2000-1-012-
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/01/17
    ジャーナル フリー

    地方分権一括法の可決成立に伴う地方自治法の改正によって,機関委任事務制度が廃止され,国の直轄執行事務となるもの以外は,法定受託事務と自治事務に振り分けられた。これらは,いずれも,地方公共団体の事務であるから,憲法の規定に照らしても,条例を制定することが可能である。ただ,法定受託事務については,国の関与が強くある結果,条例制定できる余地はそれほど大きくないといわれる。

    しかし,そうした理解は,妥当ではない。法定受託事務であっても,たとえば,国政選挙のように,地方公共団体が独自の政策裁量を働かせる余地が小さいものもあれば,自治事務に近い性格を持つために,その余地が大きいものもある。前者を,本来的法定受託事務,後者を,非本来的法定受託事務という。

    産業廃棄物処理施設の設置許可事務は,法定受託事務であるが,振り分けの経緯をみると,その整理は,暫定的なものであったことがわかる。また,機関委任事務制度のもとで立地をめぐる紛争が多発していたのは,まさに,事務の性格そのものに由来するからであった。したがって,法定受託事務であるという理由で,条例の対応を排除するのは,適切ではない。自治事務とされた産業廃棄物処理計画と許可処分を条例のなかでリンクさせて,地域的事情を踏まえた産業廃棄物処理行政が展開されるべきである。

  • 内藤 悟
    2000 年 2000 巻 p. 2000-1-013-
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/01/17
    ジャーナル フリー
  • 本田 博利
    2000 年 2000 巻 p. 2000-1-014-
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/01/17
    ジャーナル フリー
公共政策の適正レベルと費用負担
  • 細野 助博
    2000 年 2000 巻 p. 2000-1-015-
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/01/17
    ジャーナル フリー

    1974年に施行された「大規模店舗法」は,2000年にその役目を終える。戦後の流通政策を特色づける法律ではあったが,法律の目的が整合性を持たなかったこと,法律を補完すべき行政の裁量的手段が稚拙だったことによって,法律によって規制を受ける側にも,法律により保護を受ける側にも,短期的にはともかく,長期的に見れば明らかにマイナス効果のほうがプラス効果よりもはるかに大きかった。このような法律が四半世紀にもわたって廃止もされず,維持されてきたことの意味を問うことは重要である。それは,経済のグローバル化,情報化に伴って,日本の流通も変わっていかざるを得ないし,それに合わせた形で流通政策も変わっていかざるを得ない。過去の流通政策の失敗を教訓として,将来に生かすためにも,ここで「大規模店舗法」の功罪を実証化し,評価することの意味は大きい。本稿は,その試みの一つと位置付ける。

  • 和田 淳一郎
    2000 年 2000 巻 p. 2000-1-016-
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/01/17
    ジャーナル フリー

    政治過程はある一定のルールに基づいて行われるゲームにすぎない。ゲームの帰結たる人々の厚生を高めるには,ゲームのルールそのものの適切さが問われるべきである。代議制民主主義を前提にすれば,政治過程というゲームを規定するルールの中で一番重要なのは選挙制度であろう。選挙制度は明確に定められる法制度であり,望ましい経済政策をもたらすルールとして適切に定められる必要がある。本論では,選挙制度に結びついた,政治が引き起こす経済への歪みについて若干の考察を加え,望ましい選挙制度を探っていきたい。

    選挙区から選出される政治家によって支えられる政府は,選挙区制度に結びついた行動を規定される。日本における議員定数の配分は,相も変わらず不平等である。新選挙制度によって若干は緩和されたとはいえ,むしろ,各県に1議席ずつ配ったあとで,最大剰余方式により,残りを配分するという姑息な方法によるmalapportionmentで,その不平等を固定してしまった感があり,その問題点は広く認識されなければならない。このような不平等は,軽んじられた都市部住民はともかく,少なくとも重んじられているはずの地方住民にとって望ましいものといえるのであろうか?本論は非常に一般的な経済モデルに,多様な政治過程を許容する確率的投票モデルを導入することによって,その疑問に答えようとするものである。

  • 長峯 純一
    2000 年 2000 巻 p. 2000-1-017-
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/01/17
    ジャーナル フリー

    本稿は,長峯(1998)で提示した公共投資の地域間配分に関する政治-経済モデルを踏襲し,前回の県レベルの道路投資を対象にした実証分析をさらに発展させ,新たな分析視点を織り込むことを意図する。ここでいう政治-経済モデルとは,資源配分,地域間再分配,景気(雇用)対策という公共投資に期待される複数の政策目的と政治プロセスからの影響力を同時に考慮しようとする実証モデルである。今回考慮した分析視点は,第1に,国が投資主体となる道路投資(直轄事業)と県が投資主体となる道路投資とを区別し,両者の配分構造の違いを分析すること,第2に,利益集団たる建設業の多寡が道路投資の大きさと相関をもっている可能性を考慮すること,第3に,中央官僚の地方自治体への天下り出向が,その地域への道路事業や補助金配分への橋渡しになっている可能性を考慮することである。実証結果は,国の道路投資と県の道路投資の決定要因が微妙に異なり,前者については,国(建設省)が各県の道路投資に対するニーズ(面積)を睨みながら,都市地域から地方へと再分配している様子が示唆され,後者については,道路投資額と国庫補助額の同時決定の枠組みが支持され,各県への国庫補助額(1人当たり)が道路需要の充足と地域間再分配という両側面に答えていることが示された。政治家,官僚,建設業者の影響については,一部で有意かつ興味深い結果が示されたものの,全体的には今後の分析課題となった。

自由論題報告
  • 南 真二
    2000 年 2000 巻 p. 2000-1-018-
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/01/17
    ジャーナル フリー

    ビオトープとは野生生物の生息・生育可能な自然生態系が機能する空間を意味する概念であるが,現在の日本の自然環境保全に関する法律はいずれも生態系の保全という観点が極めて弱く,自然環境の破壊が著しい里山など農村・田園の二次的自然を直接保全目的とした法律もないのが現状であり,条例の枠組でも十分ではない。

    保全する価値があると思われる里山の中には,ナショナル・トラストの手法により取り組まれているところもあるが,この手法では資金面から部分的保全に止まり,多くのビオトープの保全は困難であることから,これに代わる手法として(1)地域指定による開発規制と,(2)指定地域以外における宅地造成等の一定規模以上の開発の規制を内容としたビオトープ条例を提言することとした。

    ビオトープ条例の制定主体としては,ビオトープの面積が比較的小さいものもあることから市町村とするが,条例の規制対象は普通種だけでなく,その土地固有の生態系を代表する種や絶滅のおそれのある種が生息・生育する里山等とする。

    規制方法としては許可制とする。指定地域については税の減免対象にすると共に,積極的な管理の必要な土地は土地所有者・保全団体等を含めて,詳細な管理協定を締結できることとし,これによりビオトープの保全・創造を図る。

  • 福井 秀樹
    2000 年 2000 巻 p. 2000-1-019-
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/01/17
    ジャーナル フリー

    周知のように,一九八〇年代来の規制緩和政策を理論面から支えているのは,戦後世界を長らく支配してきたケインズ経済学とは対照的な市場観を持つ新古典派経済学であり,それをハイエクやフリードマンといったより徹底した反ケインズ主義者が補強しているのが現状である。自己調整的な市場の論理を基礎に自己調整的でない政府の機能を厳しく限定していこうとする彼らの立場を「市場基礎付け主義」と呼ぼう。現在,広範な支持を受けているこの市場基礎付け主義には,しかしながら,理論的不備が認められる。「市場の失敗」に対する楽観と,「セーの法則」という暗黙の前提がそれである。これらの理論的不備のため,それは今後進められるべき規制緩和政策の指針としては不適切である。本報告の目的は,市場基礎付け主義の理論的不備を確認する作業を通じて,規制緩和政策が今後取るべき方向性を探る事にある。

  • 兼平 裕子
    2000 年 2000 巻 p. 2000-1-020-
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/01/17
    ジャーナル フリー

    世界的な規制緩和の流れの中で,自然独占の典型例であった電気事業も1995年に卸発電事業が自由化され,今,小売自由化が議論されている。「地域独占」と「総括原価方式」による料金決定と引き換えに広範な規制を受けてきた電気事業の再編が目指されている。

    電力の小売自由化にあたっては,市場原理の導入-すなわち効率化という要請と,ユニバーサル・サービス,供給信頼度,エネルギー・セキュリティ,環境問題への対応という公益性との両立が考慮されねばならない。具体的には新エネルギー発電や原子力発電と両立できる自由化でなければならない。

    電力の規制緩和によって望まれるのは「経営自主性を最大限に確保」し,「行政の介入を最小化すること」である。電力会社が規制依存型から脱却し市場の評価を得ることで,『普通の会社』になり,消費者の利益を確保することが求められている。これらの点を考慮すると,一般電気事業者である電力会社が主たる供給責任を負いながら,新規参入者と対等な立場で競争できるような全面自由化(Grid Access Model)が望ましい。

    電気事業者に求められるのは,安定・安価・公平という3つの公益性であるが,わが国の特殊性を考慮すると,エネルギー政策を含めた公益的課題については政府が国の政策として国民に明確に示した上で,民間企業である電力会社は市場性を追求すべきである。そして,これらの条件のもと,電力会社と新規参入者との有効で対等な競争が行われ,消費者自身が使用する電力供給者を選択できる仕組みが作られるべきと思料する。

  • 前田 尚子
    2000 年 2000 巻 p. 2000-1-021-
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/01/17
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,政府が国債の増発を継続する場合の金融政策当局における公開市場操作の特徴を明確にし,さらに同ケースにおける財政および金融政策当局間の協調方式を明らかにすることにある。まず,長期国債流通市場の市場環境と中央銀行の行動について,(1)国債の弊害が生じていないケース,(2)同弊害を金融政策当局優位の政策運営にて対処しているケース,(3)同弊害を財政当局優位の政策運営にて対処しているケース,以上3ケースに分けて仮説設定を行った。次に,Granger–Causalityテストとインパルス応答関数を用いて仮説検定を実施し,以下のような結果が得られた。第1に,債券の流通量については金融政策当局優位の政策運営により調整が実施されているものの,実際に国債の流通利回りを引き下げ,物価水準を調整しているのは,財政当局であると考えられる。したがって,当分析結果ではクラウディング・アウトは認められなかったものの,財政当局による国債引受・購入の原資の枯渇は同現象を引き起こすことが十分予想される。第2に,財政当局の国債引受はベースマネーの拡大を伴わなくとも,物価水準を上昇させることが結論として得られた。これら2点は,既に日本経済が,累積的国債発行の弊害であるクラウディング・アウトやインフレーションを引き起こす要因を内包している可能性を示すものと考えられる。故に,筆者は,たとえ日本経済がデフレスパイラルに陥っていたとしても,調整インフレ政策や日銀国債引受案を現状の日本経済に適用することは不適切であると

    考える。

  • 窪田 好男
    2000 年 2000 巻 p. 2000-1-022-
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/01/17
    ジャーナル フリー

    本稿では,まず,公共政策に関わる評価の代表的な類型を,事前政策分析,事後的政策分析,業績測定,実施アセスメントの4つに整理する。次いで,政策分析の機能とされる事前および事後的な政策決定を業績測定に基づいて行おうという最近のわが国で頻繁に見られる試みの典型的事例として,三重県の事務事業評価システムの改良を紹介する。その上で,業績測定による政策決定というアイディアに対する政策評価研究者の批判を整理する。政策分析と業績測定の重要な相違点の一つは,政策分析が政策と純インパクトの因果関係の解明を行うのに対し,業績測定は行わないことである。両者は測定されるデータの内容およびデータの測定方法という二つの点においてまったく異なっている。そこで,政策評価研究者たちは業績測定を政策分析の代用品とすることを制度設計者が陥りやすい陥穽として強く戒め,業績測定に加えて政策分析を行うことを提言している。しかしながら,政策評価研究者の議論は制度設計者には説得的とは言えず,政策分析の必要性についてより説得力ある議論を提示することが政策評価研究にとっての課題であるといえる。

  • 秋吉 貴雄
    2000 年 2000 巻 p. 2000-1-023-
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/01/17
    ジャーナル フリー

    70年代以降政策科学者は,政策分析による知識が政策決定において果たす役割という視点を政策過程の理論モデルに加えることの重要性を指摘してきた。近年わが国では理論モデルによる政策過程分析の重要性が認識されているものの,政策過程の動態を説明する政策志向学習(Policy-oriented learning)等の概念は必ずしも注目されていない。

    これまで知識活用(knowledge utilization)の側面から,政策分析が果たす役割として,[1]啓蒙(enlightenment),[2]唱道(advocate),という2つが指摘された。サバティアとジェンキンスミスはこの2つの役割を明示的に理論モデルに取り込み,併せて「(グループの信念を政策に実現するために)思考及び行動を規定する信念システムを変化させる」という政策志向学習の概念を提示した。

    本研究では決定的事例としてわが国及び米国の航空輸送産業における規制緩和を取り上げ,各々の政策決定過程の,[1]規制緩和のイシュー化,[2]グループ間の政策議論,[3]規制緩和法案の策定,という3つの局面に焦点を当て,規制緩和推進を志向するグループと既得権益維持を志向するグループ間の政策志向学習の様態について考察している。

    事例の分析結果から社会経済状況及び制度的状況等の変化のみでなく,政策サブシステム内部での政策志向学習が政策変容の過程及び内容に影響を及ぼすことが指摘される。しかし同時に,[1]政策志向学習がもたらす短期的変容,[2]グループ間の政策志向学習の発生要因,という二点に関して政策志向学習の概念を修正する必要が指摘される。

  • 木場 隆夫
    2000 年 2000 巻 p. 2000-1-024-
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/01/17
    ジャーナル フリー

    本発表は,科学技術政策という高度に専門家に依存した政策分野で,しろうとたる一般市民の果たしうる役割について論じるものである。一般に近時の政策決定は多かれ少なかれ専門家の意見に依存するところが多い。非専門家である市民は政策決定から疎外されるということが問題と言われる。そこで専門家,非専門家たる市民,政策決定の関係について考察する。1998年,関西でコンセンサス会議と称する市民を中心とする会議が行われた(若松,「科学技術への市民参加」研究会)。このコンセンサス会議においては,専門家パネルから市民パネルに説明がなされる過程で,市民パネルの当該科学技術に関する理解は急速に深まる。しかし,その科学技術をどのように社会に受け入れれば良いかということについては,専門家の説明だけでは納得できないことがでてくる。そこで市民パネルは専門家の知識を吸収したうえで,一般市民の文脈から新たな問題点を提起した。このようなコンセンサス会議の結果は,非専門家たる市民が科学技術の民主的な政策決定に関わるうえで,第一歩として問題の可視化をするという意義を有する。これはが科学技術に関する非専門家の関わりの一つの有効な仕方と言うことができる。

  • 永松 伸吾
    2000 年 2000 巻 p. 2000-1-025-
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/01/17
    ジャーナル フリー
投稿論文
  • 堀真 奈美
    2000 年 2000 巻 p. 2000-1-026-
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/01/17
    ジャーナル フリー

    これまでも医療費支払方式の問題は,医療政策や医療経済の学問分野で取り上げられてきた重要なテーマであり,既存研究の蓄積もある。だが,その多くが医療費抑制という国家レベルの問題意識を背景としたマクロの視点からの研究が中心であり,サービス提供側の病院,医師やサービス受給側の行動に焦点を当てたミクロの視点からの実証研究は,我が国ではほとんどなされていない。また,医療費支払方式とサービス提供側の行動に関する理論的整理は散見される程度で,昨今の急激な医療をとりまく環境変化に追いつかないというのが現状である。

    本研究は,医療費支払方式の整理分類を行うとともに,1980年代以降の米国における実証研究のレビューを中心に医療費支払方式の変化が,サービスの提供主体である病院,医師等の行動にどのような影響を与えたのか,医療サービスの質にどのような影響を与えたのか等を考察する。

  • 申 東愛
    2000 年 2000 巻 p. 2000-1-027-
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/01/17
    ジャーナル フリー

    公共事業とは,社会共同体の普遍的利益の増進,すなわち公共性の拡大を目的として,国民の税金で行われる事業である。公共事業は,市民生活の向上や経済の活性化をもたらす一方,住民の社会的・経済的生活と地域環境を変化させるマイナス面もある。そこで,公共事業における公共性の評価は,計画・執行当時の費用のみならず,事業がもたらす社会への影響,経済と地域の変化,環境破壊等も取り込まなければならない。

    さて,国営諫早湾土地改良事業を執行している農水省は,費用対効果という経済的評価を行っているが,費用としては投資金額と完成後の運転費用だけを計上し,自然環境や地域生活と経済基盤の変化については考慮していない。そして,現実には,事業目的の一つである防災効果もほとんど得られないばかりか,事業費も当初の2倍以上に増えてきている。本稿の研究目的は,公共性の問題が浮上してきた社会的現象とその原因を究明することである。すなわち,本稿では,その原因を社会的変化に従う公共性の構造転換にあるとして,その概念を再構成してみることにする。具体的には,まず,公共事業が社会問題として台頭されている現象とその意味を検討することである。次は,社会的変化に従って,公共性の構造も転換しえることに注目して,より望ましい公共事業のあり方と公共性について探ってみることである。本稿の研究方法は,仮説を設定して,単一事例分析方法を用いて検証する。本稿の分析概念は公共性とする。具体的に,まず,社会現象の原因分析から公共性の概念を導出する。次は,公共性の概念分析に入り,公共性を4つの側面(実質的な側面・手続き的な側面・時間的な側面・地域的な側面)に再構築して,本稿のツールとする。その上で,研究仮説,「公共事業としての諌早干拓事業は,公共性の4つの側面を有しているとは言いにくい」について当事業を分析する。

  • 寺沢 泰大
    2000 年 2000 巻 p. 2000-1-028-
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/01/17
    ジャーナル フリー

    行政による不祥事の相次ぐ発生を契機として,行政統制制度の拡充の必要性について広く認識が進んでいる。これに伴い,近年,新たな行政統制制度が実際に国会に導入されている。ところが,行政統制の枠組みをめぐる議論は整理されていない状態にあり,新たに導入された制度についても必ずしも所期の効果を発揮しているとはいい難い。その理由の一つは制度を捉える適切な理解が不足しているためであると考えられる。

    一般に,ある制度を設計し,導入する場合,何らかの機関や法制度などを単純に現行制度にビルトインすれば事足りるのではない。導入しようとする制度案が,導入の目的,対象,関係アクターの志向などの理解と結びつくものでなければならない。

    本稿は,こうした制度設計の考え方に従い,議会による行政統制制度を設計するにあたりどのような理解が必要か,その視座を提供することによって実際に制度設計を試みるものである。

    検討の結果,議会による行政統制制度がよりよく機能するために,以下の制度案を導入するのが望ましいと考える。すなわち,(1)委員会運営に一定の少数者調査権の仕組みを導入する,(2)既存の委員会においていわゆる一般調査を活性化する,(3)質問制度,とりわけ質問主意書制度を拡充する。

  • 村井 恭
    2000 年 2000 巻 p. 2000-1-029-
    発行日: 2000年
    公開日: 2023/01/17
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,1990年代の日本における環境政策の政治過程を説明するための分析枠組みとして,環境庁の「政治的機会構造」を提起し,環境庁主導の政策転換を環境庁の主体的力量ではなく,環境庁とそれを取り巻く政治的環境との関係によって説明することを試みる。環境庁の政治的機会構造として注目するのは,①経済開発官庁と経済団体・業界団体の一体性,②政党の役割,③同盟者の利用可能性である。

    事例研究では,環境アセスメント法制化を取り上げる。1975年から1982年にかけて6度にわたって環境アセスメント法制化に失敗した環境庁であったが,1997年に念願の法制化を達成した。本論では,政治的機会構造の観点から,以下の3つの要因に着目して,環境アセスメント法制化の政治過程を説明することにする。すなわち,①経団連・電気事業連合会が環境庁主導の法制化に柔軟な姿勢で対応したため,それに抵抗する通産省との間で対立が生じたこと

    (経済団体・業界団体と経済開発官庁の一体性の低下),②建設省が柔軟に対応したこと(同盟者の利用可能性),③環境問題に関心の深い橋本龍太郎が首相に就任していたこと,および自社さ連立政権が連立維持の政策課題として環境問題を把握しており,法制化に支持を与えたこと(政党の役割)である。

feedback
Top