公共政策
Online ISSN : 2758-2345
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公共事業における公共性に関する研究 国営諫早湾土地改良事業を対象として
申 東愛
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2000 年 2000 巻 p. 2000-1-027-

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抄録

公共事業とは,社会共同体の普遍的利益の増進,すなわち公共性の拡大を目的として,国民の税金で行われる事業である。公共事業は,市民生活の向上や経済の活性化をもたらす一方,住民の社会的・経済的生活と地域環境を変化させるマイナス面もある。そこで,公共事業における公共性の評価は,計画・執行当時の費用のみならず,事業がもたらす社会への影響,経済と地域の変化,環境破壊等も取り込まなければならない。

さて,国営諫早湾土地改良事業を執行している農水省は,費用対効果という経済的評価を行っているが,費用としては投資金額と完成後の運転費用だけを計上し,自然環境や地域生活と経済基盤の変化については考慮していない。そして,現実には,事業目的の一つである防災効果もほとんど得られないばかりか,事業費も当初の2倍以上に増えてきている。本稿の研究目的は,公共性の問題が浮上してきた社会的現象とその原因を究明することである。すなわち,本稿では,その原因を社会的変化に従う公共性の構造転換にあるとして,その概念を再構成してみることにする。具体的には,まず,公共事業が社会問題として台頭されている現象とその意味を検討することである。次は,社会的変化に従って,公共性の構造も転換しえることに注目して,より望ましい公共事業のあり方と公共性について探ってみることである。本稿の研究方法は,仮説を設定して,単一事例分析方法を用いて検証する。本稿の分析概念は公共性とする。具体的に,まず,社会現象の原因分析から公共性の概念を導出する。次は,公共性の概念分析に入り,公共性を4つの側面(実質的な側面・手続き的な側面・時間的な側面・地域的な側面)に再構築して,本稿のツールとする。その上で,研究仮説,「公共事業としての諌早干拓事業は,公共性の4つの側面を有しているとは言いにくい」について当事業を分析する。

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© 2000 日本公共政策学会
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