抄録
急速なグローバル化が進む中、学校教育の場面においても、地域の伝統や文化の維持・継承に関わる課題に取り組む事例が増えつつある。本研究では、地域文化の「学び」のあり方について、既存の教育論を基にして理論的に考察すると共に、地域文化に根ざした児童の「学び」を促進するための教育プログラムを開発することを目的とした。そこで、「学び」を「真正の文化的実践への参加」と捉えた佐伯の学習論に着目し、そうした実践自体が、当該文化の真正性を社会的な関わりの中で確証するパフォーマティブな行為であることを指摘した。その上で、愛媛県松山市を対象にして、正岡子規の『散策集』に基づくまち歩きプログラムを開発し、その実践事例から、児童がどのような学びを得たかを検討した。その結果、児童が子規の立場に“なってみる”という体験を通して、子規の立場から松山の町並みを新たに捉え直す様子が確認された。その結果、児童において、子規やその俳句文化を育んだまちに対する愛着や誇りが醸成される傾向も見られた。さらに、プログラム実施後には、引き続き自分達の小学校区を対象とした『散策集』づくりが進められ、地域文化の継承・振興に主体的に関わる姿勢が見られた。最後に、本事例を踏まえて、地域文化の「学び」の基本的な構造について考察を加えた。