実践政策学
Online ISSN : 2189-1125
Print ISSN : 2189-2946
地域の環境をケアする主体形成の鍵
日豪の市民活動事例にみる感性を磨く対話とその条件
前川 智美
著者情報
ジャーナル フリー

2020 年 6 巻 1 号 p. 23-31

詳細
抄録
環境や持続可能性の問題に取り組むためには、環境に対する人びとの意識や態度をつくり、思慮ある行為を促すことができる方法が必要である。本研究では、身近な環境をケアする市民活動の事例を検討することにより、人びとの意識や態度、行為を導く方法が備える要素には何があるか示すことを目的とした。事例として、オーストラリアのランドケア運動と、日本の“いい川”・“いい川づくり”ワークショップを取り上げ、それらにおける対話と、対話を促進する場の特徴について、考察と整理をおこなった。この結果、人びとはその感性を発揮し鍛える方法としての対話を通じて、社会のなかの自分を意識し、前向きに自分を客観視する視点を獲得することで、新たな自分の発見あるいは捉え直しをおこなっていることがわかった。すなわち、感性を鍛える対話の場を用意することは、人びとに環境と自己の関係についての洞察を与え、それは、地域の環境のケアに取り組む主体を形成することにつながる。同時に本研究では、感性を磨く方法としての対話を促進する場に備わる、4つの特徴的な要素を抽出した。すなわち、対話自体が現実の空間を共有することによっておこなわれること、対話の内容は土地や川などの具体的な環境の現場での体験に基づくこと、対話はひとつの地域を越えて多主体が集うことでおこなわれること、そして、対話のなかで人びとが精神的な安全と健康的な楽しさを感じることができることである。本研究は、これら要素が具体的な環境の現場での経験を集約する条件として機能していることを示した。
著者関連情報
© 2020 実践政策学エディトリアルボード
前の記事 次の記事
feedback
Top