抄録
我が国の医療費は増加の一途をたどり、歳出に占める割合も増加傾向にある。健康上の必要に対応しているのなら、その増加は必ずしも問題視されるべきものではないが、現在行われている医療行為の中に「過剰」なものがあり、かつ「過剰医療」によってかえって国民の健康が損なわれている可能性も指摘されている。また、緊縮的な財政規律が存在する状況下では、医療費の増加は教育、防衛、インフラ政策など他の予算を圧迫し、トータルとしての公共利益が毀損される恐れもある。しかし、「過剰医療」をめぐる実証的研究は十分行われておらず、実際に「過剰医療」が存在するか否かについても知見が乏しいのが現状である。そこで本研究では、「過剰医療」の存否についての基礎的知見の一つを提供することを企図して、都道府県ごとの総合健康指標を作成し、年齢調整済み一人当たり医療費との相関を確認した。もしも両者に相関があれば、都道府県毎の医療費の高低は、それぞれの都道府県の健康状態の高低によって規定されていると考えることができ、過剰医療が存在する蓋然性は低下する事になる。一方、もしも両者に相関がなければその蓋然性は増大する。したがって両者の相関は、過剰医療の存在を推測するための基礎的実証的知見となるのである。分析の結果、都道府県ごとの総合健康指標と年齢調整済み一人当たり医療費との間には相関がないことが明らかになった。これは、過剰医療の存在可能性を相対的に支持する実証的知見であると解釈可能である。