抄録
抗リン脂質抗体症候群(APS)は,抗リン脂質抗体(aPL)と関連する自己免疫性血栓症および習
慣流早産などの妊娠合併症と定義される.APSには膠原病に合併する二次性APSと合併のない原発
性APSが知られている.またこれらとは別に,数日から数週間という短期間の間に複数の臓器の微
小血管に血栓をきたす予後不良な一群があり,劇症型抗リン脂質抗体症候群(CAPS)と称される.
CAPSと類似した病態を示す疾患として,溶血性尿素症症候群(HUS),血栓性血小板減少性紫斑病
(TTP)などが挙げられる. CAPSが一次的な微小血栓形成の促進により惹起される病態であるのに対
して,HUSやTTPは特定の要因による血管内皮傷害を背景に発症することから,血栓性微小血管障
害性溶血性貧血(TMHA)と総称される.一方, TMHA症例の中にaPLが陽性となる一群が存在するこ
とが明らかにされてきた.このような症例ではaPLが病態形成に深く関わることが示唆されると同
時に,抗凝固療法などのCAPSに準じた治療的介入が重要となる.このような理由からaPL陽性の
TMHA症例に対しては, APSの新しいsubsetとしてMicroangiopathic APSという概念が提唱されて
いる.小児においてCAPS/Microangiopathic APSは稀とされているが, HUSやTTPと診断されてい
る症例の中にAPS症例が存在している可能性が考えられる. APSでは抗凝固療法が必要であり,小
児においてもTMHA症例ではaPL測定によるスクリーニングが重要である.