フィナンシャル・レビュー
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知事の在職年数が地方歳出に及ぼす影響に関する実証分析
―知事の属性及び就任時期の違いに着目して―
米岡 秀眞赤井 伸郎
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2022 年 149 巻 p. 112-136

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抄録

政治家の在職年数と財政運営の間における関係性については,これまで先行研究により,多くの議論が行われてきたが,正負いずれの影響を及ぼしているかについて論争がある。また,わが国の地方自治体の財政運営を分析した先行研究は,2000 年初頭までのデータによる検証が多かったため,2000 年の前後に生じた地方財政を取り巻く環境変化について十分な考慮が行われた上で,議論がなされてきたとも言い難い。本研究の目的は,こうした既存研究の課題を克服するために,1975 年から2017 年までの都道府県パネルデータを用いて,知事の在職年数と地方歳出との関係性を実証的に明らかにすることにある。その際,2000 年の前後を境として,地方歳出と知事の在職年数と の関係性が異なる可能性,あるいはそうした関係性が知事の属性及び就任時期によっても異なる可能性に着目して,実証分析を行った。実証分析から,以下の3 つの結論を得た。まず,知事の在職年数が長いほど地方歳出が 抑制されるかどうかに関しては,データの全体(1975~2017 年)では見出せなかったものの,2000 年以後において,その抑制傾向が確認された。2000 年の地方分権一括法の施行に伴った影響をより強く受けていたものと推察される。また,こうした2000 年以後に見られる知事の在職年数が地方歳出にもたらす影響は,知事の出身属性によって異なる効果が生み出されていること,さらには,その知事の出身属性の違いによる効果も,2000年以後に新たに知事が就任したか否かで異なることが確認された。得られた結論には,既存研究においてこれまで明らかにされてこなかった点,あるいは既存研究の見解とは異なる点がいくつかあり,少なくない示唆が含まれている。これらの結果を踏まえ,今後,首長の在職年数の長さが及ぼす効果と関連する制度のあり方について,さらに分析を深めていく必要がある。

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© 2022 本論文著者
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