フィナンシャル・レビュー
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新型コロナウイルスが地方公共団体の歳入・歳出に与えた影響
―コロナ禍において地方公共団体の収支は悪化したのか?―
石川 達哉赤井 伸郎
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2022 年 149 巻 p. 5-36

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抄録

2020 年度の地方財政計画にも個別地方公共団体の地方交付税にもコロナ対策は全く織り込まれていなかったが,国が3 次にわたって編成した補正予算を通じて,地方が担う事業に対する財源が措置され,コロナ対策のための国庫支出金が20 兆円も交付された。その多くは,国民1 人当たり10 万円の特別定額給付金をはじめ,ほぼ同額の補助費等の歳出増に対応するためのものであった。個人・中小企業向けの制度融資拡大も,歳入と歳出を増加させ,地方全体の歳入総額は前年度比26 兆円超,歳出総額は前年度比25 兆円超の増加となり,収支は小幅改善した。 新設の国庫支出金の多くが収支に対して中立的だと言えるが,特定財源と一般財源の両方の役割を担った新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金の使い方や実施事業によっては,収支が改善するケースと悪化するケースの両方があり得る。そこで,都道府県と市町村,交付団体と不交付団体,人口規模の属性毎にグループ分けして個別地方公共団体の2020 年度決算状況を見ると,都道府県では8 割超,市町村ではいずれのグループにおいても2/3 程度の団体の修正実質単年度収支(「実質単年度収支」の概念を修正した指標)が改善していることが明らかとなった。ただし,この収支を単年度収支と財政調整基金残高の変化に分解すると,両方が改善した団体が4 割,前者のみが改善した団体が2割,後者のみが改善した団体が3 割,両方が悪化した団体が1 割であり,収支変化の内訳は一様ではないことも明らかとなった。2021 年度および2022 年度も,コロナ禍の影響は残っており,引き続き,このような分析を継続していく必要がある。

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© 2022 本論文著者
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