フィナンシャル・レビュー
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自然災害と地方財政
石田 三成大野 太郎小林 航
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2022 年 149 巻 p. 37-66

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抄録

本稿では,財務省が自治体の債務償還能力と資金繰り状況を明らかにするために作成した行政キャッシュフロー計算書の市町村データを用い,地震を含む自然災害が自治体の現金収支や債務などの財政状況に与えた影響を定量的に明らかにした。 東日本大震災を除く自然災害の被害を受けた特定地方公共団体では,発災直後に一人当たり収支合計,行政収支,および基礎的財政収支が一時的に悪化するという結果が得られた。収支合計が悪化した理由は,災害復旧事業の実施で悪化した行政特別収支を行政経常収支や財務収支で補填できなかったためである。そのしわ寄せは地方債現在高の増加と財政調整基金の減少というストック面に表れており,財政調整基金の残高は発災初年度から減少に転じている。被災自治体に対する国の財政支援制度は存在するが,自治体は財政調整基金を取り崩して応急・復旧のための財源に充てているという実態から,財政面で応急・復旧活動に支障が出ないよう予め財政調整基金を一定程度積み立てておくことが重要である。行政収支は発災6 年後から改善傾向が見られ始めるが,これは復興によって税収が増加したというよりは,発災後に起債した地方債の元利償還金に対する交付税措置によって地方交付税が増加したためである。 東日本大震災の影響を受けた特定被災地方公共団体では,発災後に一人当たり収支合計が増加し,行政収支も増加傾向をほぼ一貫して維持し続けていたことから,特定地方公共団体と比較して資金繰り状況にはかなり余裕が見られる。行政収支で生じた膨大な余剰は,その他特定目的基金に積み立てられ,後年度に実施する復興関連事業の原資となっている。この豊富な積立金等残高の存在により実質債務は大きく低下したが,復興事業の進展により積立金等残高は減少しつつある。現在のペースではそう遠くない時期に積立金等残高が特定被災地方公共団体以外の団体と同水準にまで低下することが見込まれる。

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© 2022 本論文著者
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