2024 年 155 巻 p. 129-147
国際投資法が気候変動政策の実施を困難にしていると批判されることがある。こうした批判は,再生可能エネルギー関連政策をはじめとする気候変動政策について多数の国がエネルギー憲章条約(ECT)に基づく投資仲裁の対象となっている欧州域内で特に強い。しかし,気候変動関連投資仲裁の結果は必ずしも投資家に有利なものではない。
気候変動関連投資仲裁においては,公正衡平待遇義務違反の有無が主たる争点となることが多いが,違反の有無の認定に当たっては投資家及び投資財産の保護の必要性と投資受入国の政策裁量を尊重する必要性とがバランスされており,投資仲裁が投資受入国の政策裁量を狭めているとの批判は必ずしも正確ではない。ただ,特に欧州域内の紛争に対して投資仲裁が管轄権を行使することに対する批判は強く,このことが欧州域内に対する投資仲裁批判の主たる要因となっている。
投資仲裁に対する政治的な支持が失われている今日,投資紛争解決のための新たな手段を模索することが必要である。