経済や社会に広く浸透しつつあるデジタル化は貿易にも様々な影響を及ぼし,新たな課題をもたらしている。このため,貿易協定にも変容ないし対応のための進化が求められている。本稿は,貿易協定の変容ないし進化の様相の一端を明らかにし,自由貿易協定(FTA)を中心に形成されつつあるデジタル貿易のグローバルな規制環境について考察することを目途する。
そのため,まずデジタル貿易の概念を概観した上で,デジタル貿易の登場によって貿易に生じている主な影響と課題を考察する。次に,これらの課題に貿易協定がどの程度対応しているかについてWTO協定とFTAを検討する。対象とするFTAは,デジタル貿易の規律形成を先導する「ルールメーカー」の国々の先進的なFTA(CPTPP,USMCA,DEPA,DEA,UKSDEA,EU・UKTCA,EUSDTP)とRCEPである。
検討の結果,第一にデジタル貿易の規律形成における協定間の相互作用の様相,第二にデジタル貿易がもたらした貿易協定の射程の拡大とそのインプリケーション,第三にデジタル貿易の規律に伴う「規制する権利」の存在感の向上と,それが貿易協定において定着しつつある状況,第四にデジタル貿易に関連してステークホルダーの参加機会を向上する必要性,を結論として提示している。
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