フィナンシャル・レビュー
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  • ―規範の多重性論の観点から―
    小寺 智史
    2024 年 155 巻 p. 6-24
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル フリー

     本稿は,現在及び将来の自由貿易体制における「特別かつ異なる待遇(Special and Differential Treatment, S&D)」の意義を,規範の多重性論の観点から検討するものである。まず,国際法学において複数の条約制度における先進国―途上国関係を横断的に分析してきた規範の多重性論を概観する。そのうえで,同論に基づき,GATTにおける途上国関連規定とは区別される,WTOにおけるS&Dの構成要素及びその特徴を明らかにする。

     続いて,2000年代以降に顕著となるS&Dをめぐる状況の変化を検討する。近年のS&Dに対する批判を分析したうえで,将来のモデルとして注目される貿易円滑化協定におけるS&Dを取り上げて検討する。さらに,同協定におけるS&Dを,気候変動に関するパリ協定中の共通だが差異ある責任原則と比較し,両者に共通してみられる「二重の自己選択方式」の意義と課題を分析する。

  • ―非貿易的関心事項を中心に―
    飯野 文
    2024 年 155 巻 p. 25-60
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル フリー

     経済や社会に広く浸透しつつあるデジタル化は貿易にも様々な影響を及ぼし,新たな課題をもたらしている。このため,貿易協定にも変容ないし対応のための進化が求められている。本稿は,貿易協定の変容ないし進化の様相の一端を明らかにし,自由貿易協定(FTA)を中心に形成されつつあるデジタル貿易のグローバルな規制環境について考察することを目途する。

     そのため,まずデジタル貿易の概念を概観した上で,デジタル貿易の登場によって貿易に生じている主な影響と課題を考察する。次に,これらの課題に貿易協定がどの程度対応しているかについてWTO協定とFTAを検討する。対象とするFTAは,デジタル貿易の規律形成を先導する「ルールメーカー」の国々の先進的なFTA(CPTPP,USMCA,DEPA,DEA,UKSDEA,EU・UKTCA,EUSDTP)とRCEPである。

     検討の結果,第一にデジタル貿易の規律形成における協定間の相互作用の様相,第二にデジタル貿易がもたらした貿易協定の射程の拡大とそのインプリケーション,第三にデジタル貿易の規律に伴う「規制する権利」の存在感の向上と,それが貿易協定において定着しつつある状況,第四にデジタル貿易に関連してステークホルダーの参加機会を向上する必要性,を結論として提示している。

  • ―COVID-19 関連医療資源を事例として―
    加藤 暁子
    2024 年 155 巻 p. 61-79
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル フリー

     COVID-19の世界的流行(以下「COVID-19パンデミック」とする。)を契機に,国際通商ルールと感染症対策,その一要素を成す医薬品アクセスとの関係性が,改めて国内外のフォーラムにおいて俎上に載り,従来の対応の是非と今後の方向性が検討されている。 COVID-19の診断・治療・免疫構築に資する医療製品を確保する目的で採られた通商措置には,輸出入規制や「ワクチン・ナショナリズム」と批判された二者間取引から,他国家・地域やCOVAX Facility(以下「COVAX」とする。)等のマルチの国際機関への無償寄付,医療製品に関する一部の知的財産に関するTRIPS協定上の保護の免除,さらには,TRIPS協定31条の2に依拠したワクチンの輸入申請まで,多様なものがある。WTOをはじめとする国際機関は,国家レベルの各種措置に対する情報の収集・分析及びそれらのフィードバックを進めながら,特にCOVID-19ワクチンに関する特許権の保護に宛ててその保護を免除するWTO閣僚会議決議や,WHOにおける感染症対策条約案のような国際ルールを検討している。本稿は,COVID-19パンデミックを通じた通商制度における感染症対策の発展とその課題を明らかにすることを目的とする。

  • ―GATT/WTO 体制の歴史的展開から見た一考察―
    阿部 克則
    2024 年 155 巻 p. 80-104
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル フリー

     本稿では,近年注目が集まっている安全保障例外条項について,GATT/WTO体制を歴史的に振り返り,その位置づけや役割を検討した。GATT期は冷戦時代と重なり,ソ連や中国はGATTに加入しておらず,ソ連や中国に対する貿易制限措置はそもそもGATT法の枠外であった。そのため,地政学的対立を背景とする輸出規制などを安全保障例外条項で正当化する必要性は低かった。また,GATT紛争処理手続はコンセンサス方式を採用していたため,安全保障例外条項の解釈適用がパネルで争われる可能性も低く,同条項がGATT体制において果たさなければならない機能は比較的小さかった。WTOが成立したグローバリゼーション期においては,中国とロシアもWTOに加入し,対中・露の貿易関係もWTO法の枠内に入ったが,冷戦終結後はココム規制のような輸出規制措置はとられなくなったため,安全保障例外条項による正当化の必要性はなかった。ところがポスト・グローバリゼーション期には,自由主義経済・民主主義諸国と国家統制経済・権威主義諸国との対立がWTO体制内部で顕在化し,地政学的対立を背景とした貿易制限措置と安全保障例外条項との関係に焦点が当たることとなった。また,WTO紛争処理手続においてはネガティブ・コンセンサス方式が採用されているため,安全保障例外条項の援用がパネルによって司法審査されているが,米国は,安全保障例外条項は完全に自己判断的性質を有するとの立場をとっており,自国の安全保障政策の自由度を確保しようとしている。

  • ―温暖化対策における競争平準化の意味と紛争回避―
    関根 豪政
    2024 年 155 巻 p. 105-128
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル フリー

     2023年5月17日に発効したEUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)規則は,EU域内の排出量取引における無償配分を廃止することで懸念されるカーボン・リーケージの抑制のために,域外からの輸入品に対して排出量に応じたCBAM証書の購入を要求する制度を構築する。かかる制度は,貿易を制限する効果があるため,世界貿易機関(WTO)協定と整合的であることが求められる一方で,WTOが協定違反であるとして当該制度を強く否定してしまうと,WTOは積極的な温暖化対策を阻害する機関という誤ったメッセージとして受け止められてしまう危険性もある。そこで,本稿では,CBAM制度がWTO協定においてどのように評価されるのかを分析し,どのように対処することが望ましいか模索する。本稿の分析結果では,現行制度下では,CBAM規則はWTO協定違反と認定される可能性があると結論付けられることから,WTOの紛争処理手続に付託する以外の方法で解決することを考える必要があり,具体的にはWTOの貿易と環境委員会(CTE)の活用などを検討する状況にあると言える。

  • ―気候変動関連投資仲裁の動向と今後―
    福永 有夏
    2024 年 155 巻 p. 129-147
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル フリー

     国際投資法が気候変動政策の実施を困難にしていると批判されることがある。こうした批判は,再生可能エネルギー関連政策をはじめとする気候変動政策について多数の国がエネルギー憲章条約(ECT)に基づく投資仲裁の対象となっている欧州域内で特に強い。しかし,気候変動関連投資仲裁の結果は必ずしも投資家に有利なものではない。

     気候変動関連投資仲裁においては,公正衡平待遇義務違反の有無が主たる争点となることが多いが,違反の有無の認定に当たっては投資家及び投資財産の保護の必要性と投資受入国の政策裁量を尊重する必要性とがバランスされており,投資仲裁が投資受入国の政策裁量を狭めているとの批判は必ずしも正確ではない。ただ,特に欧州域内の紛争に対して投資仲裁が管轄権を行使することに対する批判は強く,このことが欧州域内に対する投資仲裁批判の主たる要因となっている。

     投資仲裁に対する政治的な支持が失われている今日,投資紛争解決のための新たな手段を模索することが必要である。

  • ―米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の労働・環境を題材として―
    太田代 身生, 秋山 公平
    2024 年 155 巻 p. 148-173
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル フリー

     米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の発効から3年が経過した。同協定は,米国バイデン政権が掲げる「労働者中心の貿易政策」の一丁目一番地であり,従来の自由貿易協定にない履行確保手続である「個別施設を対象とした労働即応メカニズム(RRLM)」を有している。同メカニズムでは,既に14件の実績が積み上がり,域内の企業行動に広く影響を与えている。環境に関しても,北米自由貿易協定(NAFTA)の仕組みを改善することで,着実に義務の履行確保を図っている。

     労働・環境は,その根本的価値の擁護のほか,公正な競争条件の確保,及び強靱なサプライチェーン構築の観点からも益々重視されている。USMCA労働・環境章は,従来型の国家間紛争解決手続を備えるのみならず,労働組合や市民,環境保護団体といった非国家主体の関与を伴う履行確保手続を強化した点が特徴である。

     本稿では,USMCAの労働・環境分野の履行確保状況を検証することで,自由貿易協定の労働・環境分野の履行確保手続に生じた発展を示し,インド太平洋経済枠組み(IPEF)といった米主導の新たな交渉に及ぼす影響について検討する。

  • ―GATT 期の実行に注目して―
    小林 友彦
    2024 年 155 巻 p. 174-196
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル フリー

     世界貿易機関(WTO)の紛争処理制度については,小委員会(パネル)と上級委員会からなる二審制の準司法的な手続(パネル・上級委手続)が特色とされてきた。これと比べて,仲裁のみならずあっせん・調停・仲介といった代替的紛争解決(ADR)手続の役割については,近年まで十分な関心が寄せられなかった。しかし,2019年12月以降,上級委員会の機能は停止したままであり,パネル・上級委手続の機能は大きく損なわれたま まである。本稿では,1947年GATT期のADR実行にも触れつつ,WTO紛争解決了解(DSU)に設けられた既存の非拘束的なADR手続が果たしてきた機能に光を当て,今後の可能性を分析する。その上で,パネル・上級委手続とADRとの相互補完的な協働の重要性について問題提起する。

  • 河野 真理子
    2024 年 155 巻 p. 197-219
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル フリー

     外国人投資家と投資受入国の間の投資紛争を国際的な仲裁によって解決する制度は,投資家にとっての外国投資に伴うリスクの軽減と国家にとっての投資紛争の政治化の回避の目的を持つ。こうした投資仲裁を保証するISDS条項を置く投資条約や投資章を含む自由貿易協定又は経済連携協定の急増に伴い,投資仲裁の先例の数も飛躍的に増加している。投資仲裁の先例はこの分野での国際法規則に関して重要な意味を持つようになっているものの,国家主権の尊重の観点から,各国の司法制度や立法制度に与える影響が指摘されるようになっている。これを受けて,常設の投資裁判所の設立を目指す議論も展開されている。EUがカナダ,シンガポール,ヴェトナムと締結した協定には,常設の投資裁判所の設立につながるような投資紛争の解決制度が置かれている。本稿では,ISDS条項に基づく投資仲裁及び常設の投資裁判所の設立を目指す議論の意義と問題点を検討する。

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