2024 年 156 巻 p. 145-178
本稿は,税務長官会議(Forum on Tax Administration,以下「FTA」という。)の一連の報告書が,納税協力と納税非協力に関してどのようなアプローチをとってきたかを通覧する。FTAの報告書は,2004年から公表が開始され,すでに100本以上の蓄積がある。その全体像を整理して一覧化することで,日本の読者が気軽に報告書を参照できるようにしたい。
FTAの報告書について,その時々の主要テーマの変遷をたどると,納税協力リスク管理(Compliance Risk Management),納税者サービスの電子化,税務仲介者(Tax Intermediaries)の役割,業務効率化(Working Smarter),オフショア納税非協力(Offshore Non-compliance),協力的コンプライアンス(Cooperative Compliance),デザインによる納税協力(Tax Compliance by Design),成熟度モデル(Maturity Model),行動洞察(Behavioural Insights)といった具合に,多くのアイディアが展開してきた。近年では,新型コロナウイルスまん延への対応を経て,「税務行政3.0(Tax Administration 3.0)」の標語の下に税務執行のあり方について新しい展望が示されている。
納税協力という角度からみると,初期の「租税申告書に対応する」というアプローチから,2010年ごろから「納税者の環境に働きかける」というアプローチへと,重点が変化した。この変化が,デジタル・トランスフォーメーションが進む中で,2020年の「税務行政3.0」の構想につながった。「税務行政3.0」の構想は,突然に生まれたのではなく,従来からの継続的な取組みの中に萌芽的な内容が内包されていたのである。