本稿は,EU(欧州連合)が2023年10月に制定したDAC8(EU加盟国の税務当局間の相互協力に係る指令の第8次改正)を紹介・検討するものである。
DAC8は,インターネット上で暗号資産取引の仲介を行う「暗号資産サービス提供者」(Crypto-Asset Service Provider)に対し,その顧客である「暗号資産利用者」(Crypto-Asset User)に関する情報をEU加盟国の税務当局に提供することを義務付け,当該提供された情報をEU加盟国の税務当局間で自動的に情報交換する,という枠組みを定めるものである。当該情報は,マネー・ロンダリング対策やテロリズム対策を担当する当局にも必要に応じて提供される。
DAC8は,2022年に公表されたOECDのCARF(Crypto-Asset Reporting Framework)の枠組みを,EUにおいて実施するものである。DAC8の内容は,ほぼCARFに沿ったものとなっている。EUは,OECDによってこれまでに提案されてきた税務当局間の自動的情報交換の枠組みを,DACの累次の改正により,着実に法制化してきている。これに対し,我が国での法制化は,やや遅れている。
我が国の居住者(法人その他の事業体を含む)が,外国居住者の提供するインターネット上のサービスを利用して所得を稼得している場合,我が国の税務当局にとってその所得の把握は,外国税務当局との情報交換によらなければ難しい。我が国においても,OECDが提案する情報交換の枠組みを順次立法化していくべきと考える。
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