多くの既存研究で,女性の労働供給に関して「年収の壁」や就業調整の実態が明らかになっている。本稿では,既婚女性の労働量に関するシミュレーションモデルを構築し,配偶者控除,社会保険料,所得税の基礎控除などの政策変更があった場合の感度分析を行う。人々の意識や人口動態のもたらす影響と比較することによって量的なインパクトも評価する。副稼得者の時間制約が厳しく,主稼得者の所得が家計所得の大半を占めている状況で副稼得者は家計にとって必要な額に足りない所得を補うことを目的として労働時間を決めるという所得目標仮説のもとで行ったシミュレーションでは,観察値に近い所得分布が得られ,100万円付近に高い「壁」ができる。我々の結果は,103万円の壁の正体は,所得税の課税限度でも,配偶者控除でもなく,所得目標という働く規範と,130万円の壁を回避するための保守的な労働力減少である可能性を示唆する。