抄録
青森県下北半島佐井村では、1991年頃から猿害が発生し、年々被害地域が拡大してきた。演者は1999年からY群という加害する群れを対象に、生態調査を行ってきた。その結果、群れの行動圏が拡大するとともに、農地依存率も増加し、集落環境に対する馴化が進行してきたことが判明している。さらには、この群れについて2002年ころからサブグルーピングが頻発に観察されるようになった。本研究では群れの分裂後に行ったラジオテレメトリー法による行動圏調査をもとに、分裂状況の確認と分裂後のそれぞれの群れの農地利用の変化について比較検討する。調査はこの地域の主な被害時期である7月~9月に行われた(70日間)。1日に2度各群れのロケーション調査を行い、1/25,000の地図上に記録した。GISソフトArcViewにより農地からの距離により4段階のバッファ(50m未満,50-100m,100-200m,200m以上)を設けてロケーションポイントを集積し、群れの農地依存を示す指標とした。調査の結果、それぞれの群れは約20頭(Y1群)と約50頭(Y2群)の頭数をなし、行動圏はほぼ重複しているが、遊動は別々に行われていることが明らかになった。各群れの農地依存率には差があり、例えば農地から100m以内の環境利用率は、Y2群が全体の約45%であるのに対し、Y1群では約17%であった(50m以内の環境利用率はY2群・約25%,Y1群・約7%)。分裂してまだ1,2年しか経たない現在、両者の行動圏は大きく重複しており、またもともと同じ群れであったことからも、環境面や集落環境への馴れ具合に大きな差はみられない。したがって両群の農地利用を比較するうえで重要な要素として群れサイズの違いが考えられる。今回のテレメ調査の結果からは、群れサイズの大きな群れがより農地に依存している結果となった。今後、行動圏や環境利用の変化を追跡するとともに、行動調査も行い両者の詳細な農地利用の差異についても検討していきたい。