霊長類研究 Supplement
第20回日本霊長類学会大会
セッションID: A-11
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口頭発表
競合場面でみられるフサオマキザルの協力行動
-協力関係と「黙認された盗み」-
中山 桂
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抄録
本研究では、餌をめぐる個体間の競合と協力行動の成立について検討した。5頭のフサオマキザルで同時「棒ひき課題」をおこなった。テーブルの両端に棒が取りつけられており、サルが棒をひくとテーブルが回転、もしくは手前にスライドする仕組みになっている。1頭のサルがテーブルの片側から棒をひくと、テーブルが力の方向に回転し、棒をひいたサルだけが餌を手にいれることができる。2頭のサルが両側から棒をひくと、テーブル全体が力の方向にスライドし、両方のサルが餌を手にいれることができる。実験条件は以下の4つとした:(1) 1頭のみが餌を手にいれられる条件(Solo条件)、(2) 2頭が同時に棒をひいた時のみ餌を手にいれられる条件(Joint effort条件)、(3) 1頭でひいても2頭でひいても手にいれられる餌の数が同じ条件(Mutual effort条件)、(4) 1頭でひくよりも2頭でひいた方がより多くの餌を手にいれられる条件(Competitive effort条件)。Solo条件おおよびJoint effort条件でサルを訓練し、Mutual effort条件およびCompetitive effort条件をテスト条件とした。今回は、協力関係の成立した4組のサルの行動分析の結果を報告する。サルはMutual effort条件では協力的にふるまうことがないのに対して、Competitive effort条件では好んで協力した。これは、協力の結果えられる餌の量が協力の成立に影響していることを示唆する。それぞれの条件でサルのとった行動戦略のちがいが、最終的に手に入れた餌の総量にばらつきをもたらした。手に入れた餌の総量にペア間で大きなちがいが生じている2頭では、餌へのアプローチの順序が社会的順位につよく影響されていることがわかった。興味深いことに、手に入れた餌の総量にペア間でちがいのない2頭の間では、頻繁に餌の「黙認された盗み」がおきていることがわかった。これは、餌に対する社会的寛容が餌の公平な配分につながっていることを示唆する。
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© 2004 日本霊長類学会
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