抄録
1999年6月から2002年6月まで、マレーシア・サバ州のキナバタンガン川流域においてテングザルの野外調査を行った。調査地にはone-male groupが8群とall-male groupが1群棲息していた。調査期間中にone-male groupのオスの交代が3回観察された。テングザルにおいてオスの交代が観察されたのは今回の研究が初めてである。いずれのケースにおいてもオス間の激しい闘争や子殺しは見られなかった。また、新しいオスは全てall-male groupから来たオスであった。ほとんどの霊長類ではオスの交代の直後にメスの交尾の誘いや未成熟個体に対する新しいオスの攻撃行動が見られるが、今回の研究では、性的関係はオスの交代数週間後に起こり、未成熟個体は交代後も新しいオス攻撃されることなく群れにとどまっていた。これらの観察からテングザルではオス間の闘争は比較的少なく、子殺しはまれではないかと示唆される。