抄録
(目的)樹上生活をする大型類人猿において「まわり道」を見つけ出す必要性が、知性の発達を促したという仮説が提唱されている。本研究では、オランウータンが「まわり道」を見つける能力を検討するために、発達段階の異なる個体を対象として、予備的な認知実験を行った。
(方法)Sepilok Orangutan Rehabilitation Centreにおいて、以下の2種類の実験を行った。(1)ケージ実験:屋外に設置したケージ内にオランウータンを入れ、ケージの外側にバナナを置いた。オランウータンがバナナと反対側にあるケージの出口から「まわり道」をして、バナナを取りに行くことができるかどうか実験した。(2)樹上実験:森林内のオランウータンのよく利用する木(I)の隣の、オランウータンが直登できない大きな木(C)にバナナを設置した。Iから見ると後方にある木(B)から、Cに向かってロープをわたした。オランウータンがIから「まわり道」をして(Bを経由して)、Cのバナナを食べにいけるかどうか実験した。
(結果)ケージ実験では、2歳11ヶ月の子はまわり道ができなかったが、3歳3ヶ月の子はまわり道ができた。また3歳以上でも、できる個体(6頭)とできない個体(5頭)がいた。さらに、2回目以降は1回目よりも早くまわり道ができた(4/6頭)。樹上実験では、6頭中4頭の個体が「まわり道」して(Bを経由して)、Cのバナナを食べることができた(最年少:6歳5ヶ月)。また、森林内でBに移動する経路には、いくつかのパターンがあった。
(考察)オランウータンにおいては2歳では、まわり道ができない可能性が考えられる。また、3歳以上でまわり道ができなかった個体は、観察者の影響や各個体の性格などが結果に大きく影響していた可能性が高い。樹上実験では、各個体が自分の大きさや運動能力に応じて、異なる経路を選択している可能性が示唆された。